栗山は自分に厳しく、妥協を許さない。
10年シーズン開幕から2年連続で全144試合にフルイニング出場。12年は左太ももに負傷を抱えながら、グラウンドに立ち続けた。
チームのキャプテンという立場もあるのだろう。それに加え、世界記録を少しずつ、着実に更新していく棒高跳び選手のように、栗山は自らのハードルを上げていった。
「一昨年、去年は絶対フルイニング出場の気持ちでした。今年は強いこだわりというより、続けているものだから続けたい。去年もきついときがありました。でも、そこをできたのだから、今年できないのはおかしい。自分がやりたいと思ってやってきたことだから、やりたい。去年、一昨年の自分を否定するのは嫌。出られる状態に持っていって、ゲームに出たい。一歩引くのも大事だと思いますけど、今の立場、任されているポジションがあります。まだ若いし、痛いとか言っていられない」
29歳、自分に厳しいキャプテンは、絵に描いたような好青年でもある。周囲に気遣いができ、チームメートからの信頼は絶大だ。
論理的な思考を、言葉に表すことができる
12年シーズン序盤、八戸大学から入団して2年目の秋山翔吾は5番に抜擢された。クリーンアップで中島裕之、中村剛也という球界を代表する打者の後を打つことに「緊張した」という秋山に、栗山はこんなアドバイスを送った。
「どんなにいいバッターでも、10回に3回しか成功しない」
野球の世界では、バッターは3割を打てば一流と評価される。裏返せば、10回に7回は凡打でいいのだ。栗山の一言で、秋山は楽な気持ちになったという。
「10打席のうち3回の成功を狙うと、どうしてもそれより下がります。だから、5安打を狙うくらいの考えでいる。いい当たりが野手の正面を突くこともありますからね。栗山さんに言われて、『10回に3回の成功でいい』と思えるようになりました。ありがたい言葉ですね」
栗山はまた、論理的な思考を言葉に表すことができ、自らの成長を段階的にとらえられる選手でもある。
兵庫の名門・育英高校時代、栗山は2年生の頃から4番を打ち、通算47本塁打を記録した。当時は「ホントに技術がなかったので、スイングスピードで飛ばしていた」と言う。
しかし、現在は安打製造機のタイプだ。ピッチャーの投じたボールをぎりぎりまで見極め、打つポイントを体の近くに置いてボールを強くたたく。センターから左方向、いわゆる逆方向への安打が多く、玄人好みのタイプと言えるだろう。
“変身”のきっかけは、プロの壁にブチ当たったことだった。
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