消費増税「再延期」をするべきではない理由 経済学的に見た、正しい消費増税の考え方

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確かに、「名目GDP成長率 > 0 ≒ 名目金利水準」が長い期間にわたって実現し、国債残高の伸び率が鈍化し名目成長率を下回って推移すれば、国債残高の対名目GDP比率が着実に低下していきます。そうなれば、「消費税増税など必要ない」といえるかもしれません。

しかし、残念ながら、「名目GDP成長率 > 0 ≒ 名目金利水準」の経済状態は、一時的に実現できたとしても、それが長続きするわけではありません。名目GDP成長率の上昇とともに名目金利水準もやがて上昇する結果、名目金利水準が名目GDP成長率よりも高くなってしまうからです。あるいは、ゼロ近傍の金利水準に見合って、デフレが進行し名目GDP成長率がマイナスになる可能性もあります。いずれにしても、「名目GDP成長率 < 名目金利水準」という状態が、マクロ経済にとっては自然な姿なのです。

まずもって確認しておきたいことですが、これまでの日本経済において、「名目GDP成長率 > 金利水準」の経済状態が継続したことがあるのかというと、そういったことはまったくありません。国債残高に対する国債利払い額をもって国債金利として、1980年度から2013年度の期間について名目GDP成長率と比較すると、2012年12月の政権交代以降の2013年度以外、そうした経済状態は観察されません。

「いやいや、これまでの経済政策が間違っていたのであって、これから正しい経済政策を実施すれば、『名目GDP成長率 > 0 ≒ 金利水準』の経済状態を長く続けることができる」という主張があるかもしれません。未来に向かっての言説は、それを云々することはずいぶんと難しいものです。特に、信念からそうした主張をしている人たちに向かって議論することはさらに困難なことでしょう。

そこで経済理論の出番です。

経済理論を用いて考えてみる

「名目GDP成長率 < 名目金利水準」の自然な姿に逆らって、無理矢理に「名目GDP成長率 > 0 ≒ 名目金利水準」を長い期間にわたって実現しようとする企てがどのような帰結をもたらすのかを、経済理論を用いて考えていきましょう。

ここで注意してほしいことなのですが、これから展開する議論は、あくまで思考実験であって、昨今の経済環境においてそのようなことが実際に起きると主張しているものではありません。

まず、金利が十分に低い水準であれば、生産設備の性能が劣って収益性が低くても、あるいは、経費がかさんで採算性が芳しくなくても、お金を借りて設備投資をしようとする人が増えてくるでしょう。その結果、経済全体の設備投資水準は拡大します。しかし、こうして投資された低生産性の生産設備は、将来に生産拡大の形で果実を生むことができません。経済全体で見ると、いくら大規模に設備投資をしても、将来の豊かな消費を支える生産増大に寄与しないわけです。

設備投資とは、本来、現在の消費を犠牲にして投資に資金を回すことで将来の消費を拡大させる行為です。しかし、低金利だからといって低生産性の設備投資を活発に行えば、現在の消費どころか、将来の消費も犠牲にしかねなくなります。その結果、設備投資主導で経済は成長していきますが、その裏側では、経済全体の支出に占める設備投資の割合が上昇し、家計消費の割合が低下していきます。

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