消費増税「再延期」をするべきではない理由 経済学的に見た、正しい消費増税の考え方

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一方、日銀は、こうして金利ゼロで集めてきた資金を、主として長期国債に投資していました。すると、日銀は、金利負担ゼロの資金で国債金利の収入を得ていますので、国債金利分が丸ごと日銀の収入になりました。この収入こそが、日銀の通貨発行収入に相当します。日銀は、通貨発行収入を政府に納付してきました。一方、政府は、日銀から納付された資金を国債の利払いや元本償還に充てたわけです。まさに、日銀の通貨発行収入が国債の元利返済に貢献してきたのです。

それでは、通貨発行収入によって、どの程度の国債の返済が可能になるかということですが、細かなことは飛ばして結論だけをいうと、「金利水準がゼロやマイナスになっていなかった1980年代や1990年代の経済環境」を前提とすれば、対名目GDP比でせいぜい10%程度の国債残高が日銀の通貨発行収入でまかなえる限度ということになります。現在の国債残高は、対名目GDP比で160%ですから、平常の金融環境(金利がゼロ水準を上回っているという意味において「平常」ということですが)では、日銀の通貨発行収入によって国債返済をまかなうことなど、とてもかなわないわけです。

通貨発行収入でまかなえる国債残高が対名目GDP比でたかだか10%であることの理由を平易に説明するのは大変に難しいのですが、次のように考えると大まかな相場観が分かるかもしれません。

まず、金利水準がゼロを継続的に上回っているとしましょう。家計や企業は、手許にある紙幣(日銀券)を銀行に預けて利息を得ようとします。すると、大量の日銀券が民間銀行を通じて日本銀行に返されます。その結果、今は、日銀券の発行残高が100兆円近くありますが、おそらく40兆円ぐらいまで減ると予想されます。

一方、民間銀行も、金利が付かない日銀当座預金には、義務付けられた額を上回って預けなくなります。その結果、日銀の当座預金残高は、今の250兆円を超える水準から10兆円程度に激減するでしょう。したがって、日銀が民間から調達できる資金は、日銀券の40兆円と当座預金の10兆円となります。その合計50兆円程度が、日銀が国債保有にあてることができる資金限度です。この約50兆円という規模は、今の名目GDPの水準である約500兆円の1割に相当します。

積極的に金融緩和を展開しても…

最後に、現在の「異例な金融環境」における通貨発行収入について少しだけコメントをしておきたいと思います。特に、強調したい点は、いくら積極的に金融緩和を展開しても、通貨発行収入がかならずしも改善するわけではないことです。さらには、「異例な金融環境」から「平常な金融環境」に移行する際には、通貨発行収入どころか、通貨発行支出が生じてしまいます。

2013年4月から展開された異次元金融緩和では、日銀は、当座預金を通じて年0.1%の金利で調達した資金を主として長期国債に投じてきました。長期国債の利回りは、年1%を下回って低くなったとはいえ、年0.1%を上回っていましたから、その意味では、日銀は通貨発行収入を得ていました。ただし、日銀は、満期までの期間がずいぶんと長い国債を積極的に保有するようになりました。そうした長期国債の価格は変動も激しいので、価格変動のリスクを加味すると、正味の通貨発行収入は見かけよりも少なかったといえます。

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