消費増税「再延期」をするべきではない理由 経済学的に見た、正しい消費増税の考え方

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それでは、2016年1月に導入が決定された負の金利政策のもとでは、日銀の通貨発行収入はどうなったのでしょうか。日銀は、当座預金にすでに預けられていた資金のほとんどに対して依然として年0.1%の資金を支払っています。一方、運用対象の長期国債の利回りは、ゼロを下回ってマイナスになってしまったので、既存の当座預金への金利支払いと新規保有の長期国債からの金利収入をみると、通貨発行収入は減っていくことになります。ただし、日銀がすでに保有していた長期国債については、国債金利がマイナス水準へ低下するにつれて、値上がり益が出るので、その分、正味の通貨発行収入は改善したことになります。

もっとも問題となってくるのは、「金利水準がゼロを下回る異例な状態」から、「金利水準がゼロを上回る平常な状態」に移行するときの通貨発行収入です。まず、資金調達の主要手段となっている当座預金(正確には、民間銀行に預入義務が付けられている残高を超える部分の当座預金)については、市場金利に見合って金利水準を年0.1%から引き上げていかざるをえなくなるでしょう。

一方、新規保有の長期国債については金利収入が増加するものの、すでに保有していた長期国債の価格が大きく下落します。その結果、日銀にとっては、当座預金の金利支払いが膨らむ一方で、すでに保有していた国債の価格が下落して収入が落ち込むので、正味の通貨発行収入は大きく赤字となってしまいます。

いずれにしても、これまでの議論を踏まえれば、日銀の通貨発行収入は、国債返済の資金としてまったく不十分ということになります。日銀の通貨発行収入があるから消費税増税など必要ないとは、とても言えないわけです。

根拠なき不安

多くの人々が消費税増税に対して漠然とした不安を持ち、消費税増税に代わる財政再建策に何となく期待を寄せてきました。しかし、そうした不安や期待は、1つ1つ注意深く検証してみると、しっかりとした根拠があるわけではないのです。

これまでの議論ではまったく言及してこなかった社会保障改革は、消費税増税の議論と表裏一体の側面があります。この社会保障改革の必要性を強調することは、消費税増税が必要とされる度合いを高めこそすれ、低めることはありません。

2014年11月の記者会見で「財政再建の旗を降ろすことは決してありません。国際社会において、我が国への信頼を確保しなければなりません。そして、社会保障を次世代に引き渡していく責任を果たしてまいります。安倍内閣のこうした立場は一切揺らぐことはありません」と表明した首相の強い決意を踏まえれば、消費税増税の再延期という政策オプションはありえないのでないでしょうか。

斉藤 誠 一橋大学大学院経済学研究科教授

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さいとう まこと

一橋大学大学院経済学研究科教授。専攻はマクロ経済学、ファイナンス理論。1960年生まれ。83年京都大学経済学部卒業、92年マサチューセッツ工科大学経済学部博士課程修了、Ph.D.取得。2001年4月から現職。07年に日本経済学会・石川賞、10年に全国銀行学術研究振興財団・財団賞受賞。主な著書に『原発危機の経済学』(日本評論社、石橋湛山賞)、『金融技術の考え方・使い方』(有斐閣、日経・経済図書文化賞)、『資産価格とマクロ経済』(日本経済新聞出版社、毎日新聞社エコノミスト賞)、『競争の作法』(ちくま新書)、『経済学私小説〈定常〉の中の豊かさ』(日経BP社)。

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