消費増税「再延期」をするべきではない理由 経済学的に見た、正しい消費増税の考え方

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日銀といっても金融機関ですから、長期国債を保有するための資金は、どこからか借りてこないといけないわけです。日銀の主な資金調達先は民間銀行です。民間銀行は、日銀に当座預金という形で資金を預けているのですが、その資金こそが、日銀の長期国債保有に必要な資金となっているわけです。民間銀行が日銀に預けた当座預金残高は、2011年12月末で47兆円であったものが、2015年12月末で253兆円に達しています。

すなわち、長期国債保有の増分、280兆円から89兆円を差し引いた191兆円の資金調達は、日銀当座預金の増分、253兆円から47兆円を差し引いた206兆円でカバーされたことになります。

国債保有資金は民間銀行から借りてきただけ

日銀は、長期国債保有のための資金を何か“錬金術”のような方法で作り出しているのではなく、単に民間銀行から借りてきただけです。また、日銀が当座預金の形で資金を借りる場合、日銀は民間銀行に年0.1%の金利さえ支払ってきました。2016年1月に負の金利政策の導入を決定してからも、民間銀行がすでに日銀に預けていた分のほとんどについて、年0.1%の金利が引き続き支払われています。

話がやや脱線しますが、日銀が民間銀行から資金を借り入れて国債を購入しても、財政法が禁じている「日銀による国債引き受け」とはなりません。日銀を中心にしてみると、日銀は政府に対して債権者となり、民間銀行に対して債務者になっています。日銀は、政府によって支払われる国債償還資金を、民間銀行に返済しなければなりません。

「日銀による国債引き受け」とは、日銀が政府から直接引き受けた国債買入資金を、政府が日銀に開いた預金口座に全額振り込んでしまうという行為です。この場合、日銀は、政府に対して債権者であると同時に債務者となります。こうして日銀に引き受けられた国債は、債務と債権が相殺されて政府に実質上の返済負担が生じないので、政府はいくらでも資金を捻出することができます。仮に「日銀による国債引き受け」が実行されれば、かならずや物価高騰という悲惨な事態が起きます。だからこそ財政法は、政府と日銀の“錬金術”を禁じているわけです。

話を元に戻しますが、「金利水準がゼロやマイナスになるという異例な金融環境」に日本経済が陥る前、すなわち、「金利水準がゼロを上回っている金融環境」では、日銀は、民間銀行とまったく異なる特別な形で、まさに通貨発行収入と呼ばれる収入を得ていました。日銀は、この通貨発行収入を通じて国債の元利返済に貢献してきたのです。

少しややこしい話ですが、できるだけ噛み砕いて話していきましょう。

日銀券と呼ばれている紙幣は、実は、日銀の発行した預金証書です。この預金証書を保有していると、千円札なら千円の額面分の商品を購入することができますが、日銀から利息を受け取ることはありません。すなわち、日銀券と呼ばれる紙幣は、金利ゼロの預金証書なのです。

一方、それぞれの民間銀行は、その預金残高に応じて、日銀の当座預金に資金を預ける義務があります。こうした当座預金は準備預金と呼ばれています。法的な義務として民間銀行が準備預金に預ける資金にも金利は付きません。日銀券と準備預金(日銀当座預金)は、いずれも、日銀が発行する通貨と呼ばれています。日銀は、通貨発行を通じて、金利ゼロで資金を調達することができました。

しかし、日銀は、金利ゼロで限度なく資金を調達できたわけではありません。日銀券については、企業や消費者が必要とする範囲で発行されました。当座預金については、民間銀行が預け入れ義務を超えて金利ゼロで資金を預けることはしませんでした。

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