消費増税「再延期」をするべきではない理由 経済学的に見た、正しい消費増税の考え方
もちろん、現実には、毎年の消費税増収分全額が国債の元利返済にあてられるわけではありません。また、一挙に8%引き上げることは無理ですから、“徐々に”となります。今の財政状況ですと、その間に国債残高は膨れていきますので、国債残高を帳消しにするには、結果的に8%をかなり上回る消費税率の引き上げ幅が必要になってきます。
このようにして考えてくると、消費税率の2%引き上げが、財政再建にとっていかに重要なのかが分かってくると思います。
消費税増税で景気が停滞する?
そうした消費税増税の重要さにもかかわらず、多くの人々は、消費税増税に対して漠然とした不安を持っています。すなわち、「消費税増税で景気が停滞してしまうのではないか」という懸念です。事実、2014年に消費税増税の延期が決定されたのも、2014年4月に消費税率が5%から8%に引き上げられて「景気が失速した」と政府の人たちだけでなく多くの人々が実感したからです。しかし、実質GDPなどの生産指標の動向を見る限り、消費税増税の影響は、たかだか実施後半年にすぎませんでした。
消費税増税は、実施をはさんで、その前と後に大きな影響を及ぼします。実施前は、消費や住宅建設が前倒しされ、それに伴って生産も活発になりますから、景気は大変に良くなります。事実、2013年度は、好景気になりました。一方、実施後は、その反動で消費や生産が大きく落ち込みます。
そうした実施前後の影響は、高価で耐久性の高いものほど大きくなります。たとえば、自動車や住宅建設の駆け込み需要とその反動は顕著です。
しかし、「実施前の前倒しによる好景気」と「実施後の反動による不景気」は、どのような経済状態でも、経済状況が改善していようが、悪化していようがかならず起こります。したがって、消費税増税の実施では、どうしても避けられないわけです。もし、実施直前と直後の景気の振幅だけをもって消費税増税に反対という理屈が通れば、いつまでたっても消費税増税は実施されないことになります。
そこで、消費税増税の景気や経済成長に対する影響を鑑みるのであれば、もう少し長いスパンで判断をする必要が出てくるのでないでしょうか。たとえば、消費税増税の前倒しの効果が表れていないと考えられる2012年第4四半期(2012年10月から12月)の経済活動状況を基準として、実施後の2年間程度(2014年度、2015年度)の経済活動状況を比べてみる必要があるのだと思います。
もっとも標準的な生産指標である実質GDPを見ると、前倒し効果が顕著な2013年度は、2012年第4四半期の水準を大きく上回りました。一方、実施直後の2014年4月から9月の半年間、実質GDPは落ち込みました。しかし、それでも、2012年第4四半期の水準を若干上回っていました。その後は、徐々に回復しました。こうした回復傾向は、原油安や円安のメリットをいっそう反映する所得指標である実質GNI(国民総所得)に顕著に現れています。
すなわち、経済全体の生産・所得指標で見るかぎり、実施後の反動による景気の落ち込みは、たかだか半年間にとどまり、その後は、回復基調にあったということになります。
ただし、家計消費の動向を見ると、2013年度に増加したのは生産・所得指標の動向と同じですが、実施後の反動で実質消費の水準は2012年第4四半期の水準を若干下回り、その後も横ばいで推移しています。このような消費動向を踏まえると、消費税増税が実施された結果、家計消費に対する悪影響が続いたと考えてもおかしくありません。
しかし、私は、消費税増税が家計消費の停滞の理由だとは考えていません。むしろ、消費税増税の影響は短期的であって、生産・所得がその後に回復したにもかかわらず、家計消費の低迷が続いてきた点を重視したいと思っています。こうした家計消費の低迷には、消費税増税の影響よりもより構造的な要因があると考えています。
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