消費増税「再延期」をするべきではない理由 経済学的に見た、正しい消費増税の考え方
ここでは、もっとも重要な構造的要因として、実質労働所得の長期的な低迷を指摘しておきたいと思います。雇用者報酬という労働所得の指標を見てみると、消費税実施後に限らず、21世紀に入って経済全体の生産・所得の回復が労働所得の回復につながらない状況が続いていました。たとえば、2002年から2007年の「戦後最長の景気回復期」においても、2008年9月のリーマンショックで生産が著しく落ち込んだ2009年前半からの回復過程においても、実質労働所得は低迷してきました。
すなわち、家計消費の低迷の背景には、経済全体の生産・所得の改善が家計部門に恩恵をもたらしてこなかった事情があるように思います。おそらくは、消費税増税の再延期で生産・所得の回復がたとえ加速したとしても、家計消費の低迷は続くのでないでしょうか。
「経済が成長すれば財政も再建できる」は本当か
先にも述べたように、「経済が成長すれば消費税増税など必要ないかもしれない」と何となく思っている人も少なくないと思います。
確かに、経済成長が財政再建に貢献するという主張は、まったく正しいことです。自然増収と呼ばれていますが、経済が成長することで税収も増えるわけです。税収の拡大速度が経済の成長速度をかなり上回るとして、自然増収の規模が非常に大きいと主張するエコノミストも少なくありません。
ここで国家が背負う財政負担の程度を「名目GDPに対する国債残高の比率」で見てみて、その比率が低下することをもって財政再建の進捗と考えるとします。経済が成長すれば、比率の分母にあたる名目GDPが拡大して、確かに比率の低下に貢献します。
しかし、「経済が成長すれば、消費税増税は不要である」と説得的に主張するには、上の比率の分母の名目GDPだけでなく、分子の国債残高についても考えてみる必要があるでしょう。国債残高の方は、現在のように元利払いをさらに借金で調達する状態では、金利水準に応じて国債残高が雪だるま式に増加します。したがって、金利水準が低いほど、比率の分子にあたる国債残高の増大が鈍化して、比率の低下に貢献します。
要するに、名目GDPの成長率が高いほど、金利水準が低いほど、名目GDPに対する国債残高の比率は低下して財政再建が進みます。
事実、現政権の経済政策は、成長戦略(「第3の矢」と呼ばれている政策)や財政出動(「第2の矢」)によって名目GDP成長率を引き上げ、強力な金融緩和政策(「第1の矢」)によって金利水準(正確には名目金利水準)をゼロ近傍に引き下げることによって、「名目GDP成長率 > 0 ≒ 名目金利水準」の経済状態を実現させることにかなりの政策リソースを投入してきました。強力な金融緩和政策の効果として期待されているインフレ率の上昇も、名目GDP成長率を引き上げます。
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