戦略の修正を迫られた安倍政権の前途多難 衆参同日選見送りでどうなるか

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安倍首相は熊本地震への対応優先で、衆参同日選を見送った(写真:共同)

花火を上げ続けてきた政権が、小休止すると、とたんに求心力を失う。政治の世界ではしょっちゅうあることだ。安倍晋三政権も、そんな局面に経たされている。

2012年末の発足以来、次々と新機軸を打ち出し、「もたついて、成果も出せなかった民主党政権とは大違い」と、しきりにアピールしてきた。アベノミクスの金融緩和は円安・株高をもたらし、財政出動は景気回復の下支えとなった。成長戦略はパンチ不足だったが、次々とメニューを並べた。「一億総活躍」も、中身は迫力に欠けるだが、品数は多い。安全保障でも、集団的自衛権の行使容認に踏み切り、関連法を強引に成立させた。

安倍首相が、そうした政策を積み重ねた先に見据えていたのは、衆参両院で改憲勢力を三分の二以上にして、憲法改正を実現することだ。そのために、今夏の参議院選挙に合わせて衆議院を解散し、衆参同日選に持ち込む。それは安倍首相の政権戦略の本筋だったのである。

ところが、その戦略に大きな狂いが生じた。

戦略を狂わせた3つの事情

まず、第一に安倍政権の最大の「売り」だった景気回復に陰りが出てきた。年初来の株安をはじめ、経済指標は悪化。アベノミクスの行き詰まりが指摘されてきた。日本銀行のマイナス金利政策も評判が悪く、景気対策は手詰まりの様相を見せている。

第二に、民進党と日本共産党などの野党に共闘の機運が熟してきたことも、政権与党側にとっては予想外の展開だ。衆院北海道5区の補欠選挙では、自民党は幹部を次々と投入して組織選挙を展開。公認候補が野党統一候補をかろうじて押さえたが、野党候補の猛追ぶりに、自民党内からは「本来なら楽勝の選挙だったのに、野党がまとまると怖い」という見方も出ている。

そうした事情から、安倍首相は今国会会期末の衆院解散・衆参同日選を回避する方向に傾いていた。側近の菅義偉官房長官が、同日選で自民党が議席を伸ばすとは限らないことから解散の先送りを主張していたことも安倍首相の判断に影響を与えたようだ。

最後に、熊本地震とその復旧対策は、同日選回避の流れを決定づけたといってよいだろう。安倍政権は「当面は復旧対策に専念する」ために、政局運営を軌道修正することになったのである。

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