戦略の修正を迫られた安倍政権の前途多難 衆参同日選見送りでどうなるか

拡大
縮小

それでも、安倍政権の前途には依然として大きな壁が待ち受ける。

まず、熊本地震の復旧対策だ。補正予算案を編成し、5月中旬には国会に提出、成立させなければならない。閣僚らの発言などをめぐって被災地から政府の対応に不満が吹き出すようだと、野党の銃撃材料になりかねない。

経済情勢も厳しさを増している。米国の追加利上げ見送りで円高傾向が続き、株価は引き続き低迷している。個人消費もはかばかしくなく、デフレの再燃といった懸念さえ出始めている。与党内には景気刺激のための大型補正予算案の編成を求める声が強いが、本格的な景気対策は参院選後に持ち越される。

安倍政権が「成長戦略の柱」と位置づけてきたTPP(環太平洋経済連携協定)の国会承認と関連法案の成立が今国会では見送られたことも、経済活性化にとっては大きなダメージだ。

参院選が単独となる場合、野党共闘はいっそう進んでいくだろう。45の選挙区中、改選数1のいわゆる「1人区」は32。そのうち22の選挙区では、すでに野党が無所属候補をそろって推したり、共産党などが民進党候補に相乗りしたりする形を整えた。残りの10選挙区でも野党協力の話し合いが進んでいる。大都市部でも、野党の攻勢は強まる気配だ。

2017年4月からの消費増税(税率8%から10%への引き上げ)はどうなるか。安倍首相は当初、増税をさらに先送りする考えを表明して衆院を解散、衆参同日選という戦略を描いていたが、それが困難になり、先送りの決定時期も見えにくくなってきた。

参院選で与党勢力減れば、"解散"は微妙に

参院選で仮に与党勢力が減った場合、安倍首相の求心力低下は避けられない。その結果、財務省や自民、公明両党内の「増税は予定通り進めるべし」という勢力を押さえ込めるかどうか。先送りする場合は、2017年度予算案の編成作業前に決断しなければならないから、遅くとも11月だろう。その方針を打ち出して衆院解散・総選挙という選択は残されているが、安倍首相にその余力が残っているかどうか、微妙だ。

年内解散を逃せば、消費増税も予定通り実施される。景気の先行きが見通せない中で、2016年末から17年にかけての駆け込み需要はさほど期待できないだろう。17年春以降は、増税による景気の落ち込みが必至だ。そのため、17年秋までの解散は、まず無理というのが常識的な見方だ。政権の最大の武器である解散権は当面、封じられてくるのである。安倍政権が求心力を回復する手立てはなかなか見通せない。

年初来の経済の変調と与野党関係の変化、さらには熊本地震という情勢の中で衆院解散の先送りが固まりつつある政局。政権発足から3年半近くになる安倍首相が、大きな岐路を迎えていることは確かだ。
 

星 浩 政治ジャーナリスト

著者をフォローすると、最新記事をメールでお知らせします。右上のボタンからフォローください。

ほし ひろし / Hiroshi Hoshi

1955年生まれ。東京大学教養学部卒業。朝日新聞社入社。ワシントン特派員、政治部デスクを経て政治担当編集委員、東京大学特任教授、朝日新聞オピニオン編集長・論説主幹代理。2013年4月から朝日新聞特別編集委員。2016年3月からフリー。同年3月28日からTBS系の報道番組「NEWS23」のメインキャスター・コメンテーターを務める。著書多数。『官房長官 側近の政治学』(朝日選書、2014年)、『絶対に知っておくべき日本と日本人の10大問題』(三笠書房、2011年)、『安倍政権の日本』(朝日新書、2006年)など。

 

この著者の記事一覧はこちら
関連記事
トピックボードAD
政治・経済の人気記事
トレンドライブラリーAD
連載一覧
連載一覧はこちら
人気の動画
日本の「パワー半導体」に一石投じる新会社の誕生
日本の「パワー半導体」に一石投じる新会社の誕生
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【浪人で人生変わった】30歳から東大受験・浪人で逆転合格!その壮絶半生から得た学び
【浪人で人生変わった】30歳から東大受験・浪人で逆転合格!その壮絶半生から得た学び
アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
  • シェア
会員記事アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
トレンドウォッチAD
東洋経済education×ICT