消費増税「再延期」をするべきではない理由 経済学的に見た、正しい消費増税の考え方
これまでのストーリーは、お金を借りて設備投資をする側から見てきましたが、それでは、お金を貸す側は、なぜ、収益性が低いにもかかわらず資金を提供するのでしょうか。この場合、お金を貸す側は、収益からの見返りなどまったく期待していないのです。彼らが期待しているのは、資産の値上がり益、すなわち、キャピタルゲインだけです。
不動産物件に資金を提供する人は、そこからあがってくる家賃収入ではなく、不動産価格の高騰を期待しているのです。株式に資金を投資する人は、企業収益が低く配当がさえないにもかかわらず、株価が高騰することを期待しているわけです。
その結果、何が起きるのでしょうか。株価や不動産価格など、ありとあらゆる資産価格は、収益の裏付けなどまったくないままに高騰していくのです。まさに、資産価格バブルが生じます。収益の裏付けのない資産価格バブルは、いずれ、暴落します。その結果、経済に残されるのは、ガラクタの生産設備や不動産物件と、焦げ付いた不良債権ばかりとなります。
これまで述べてきたことは、1980年代後半に日本経済が陥った状況にとても似ています。
いずれにしても、このような形で高い経済成長や資産市場の活況を一時的に実現したとしても人々は幸せになりませんし、そうした経済環境は、長期的に継続することなどできないのです。結局は、「名目GDP成長率<名目金利水準」という自然な状態に戻ろうとするプロセスで経済は大きな混乱に見舞われます。
理論的に考えると、「名目GDP成長率>0≒名目金利水準」の状態を継続させて財政再建を図ろうとする企ては、経済の土台を根底から揺るがしかねない可能性を秘めていることになります。
それでは、ゼロ近傍の名目金利水準で経済成長、インフレ、資産価格高騰が起きないとすると、代わりに何が起きるのでしょうか。理論的な帰結は、金利水準の低さに見合った経済停滞やデフレですし、実際の経済の状況もそれに近いのでないでしょうか。かなり冷徹な理論的インプリケーションですが、ゼロ近傍の名目金利水準は、経済成長やインフレの起爆剤というよりは、低成長やデフレの帰結と受け止めざるをえないようです。
「日銀のおかげで国債返済も大丈夫」という誤解
先にも述べたように、「日銀が国債を保有してくれるかぎり国債返済の心配など必要ないかもしれない」と何となく金融政策に期待を寄せている人も少なくありません。
後で詳しく説明しますが、確かに、日銀には、通貨発行収入と呼ばれる特別な収入源があります。しかし、この通貨発行収入は、国債返済の資金としてまったく不十分なのです。
まずは事実を確認していきましょう。
2013年4月以降の異次元金融緩和と呼ばれる強烈な金融政策によって、日銀は、国債、とりわけ長期国債を大量に保有するようになりました。日銀による長期国債の保有は、2011年12月末で89兆円であったものが、2015年12月末で280兆円に達しています。
しかし、日銀が長期国債を保有しているということ自体は、日銀が長期国債を最終的に返済していることをまったく意味しません。
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