再認識させられる「検証する」ことの重要性 巨額年金消失。AIJ事件の深き闇

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巨額年金消失。AIJ事件の深き闇 九条清隆著 ~再認識させられる「検証する」ことの重要性

 

評者 高橋 誠 ユナイテッド・マネージャーズ・ジャパン取締役会長

 

今年金融界における最大の事件といえば、おそらくAIJによる巨額年金資金の消失事件であろう。捜査終結の報道がなされたが、事件の全容の解明は今後の課題である。

本書は、AIJの元企画部長が書いたインサイドストリーであり、同時に懺悔の書でもある。著者は大手証券に入社後、米国に留学し最先端のオプション理論を学ぶ。帰国後株式オプション市場の創設を手がけ、その後も一貫してこのビジネスにかかわってきたプロである。

縁あってAIJに企画部長として入社した著者は、事件が発覚するまでの3年弱の間、年金基金に運用報告を行うための四半期報告書の作成を担当する。疑問の一つは、報告書の作成段階でオプションのプロである著者がなぜウソを見抜けなかったのか、である。著者は設立以来の安定した運用成績を疑うどころか、プロならオプションの売りによってこのくらいの成績は出せると思った、のだそうだ。

この間の経験を基に、天性のセールスマンである浅川社長の性格、行動に加え、社長の代わりに年金基金に説明を行うなどの体験談が生々しく語られる。年金基金側の依存ぶりもむべなるかなと思わせる内容だ。

AIJは、上場のデリバティブのみを売買し、ケイマン籍のファンドの基準価格をオフショアに自ら設立した管理会社を使って10年近くも操作に成功したという。この点はオペレーション上のデューデリジェンス(事前調査)の重要性が叫ばれる中、参考になる点でもある。

この事件は結局、浅川社長が「取り戻す自信」だけを頼りにウソの運用成績を告げていたという案外単純なものではないか、と結論付ける。だとすれば年金基金側にとっては「信用するが、検証する」ことの重要性をあらためて認識させられよう。

くじょう・きよたか
元AIJ投資顧問企画部長。1958年生まれ。本名・国宗利広。早稲田大学政治経済学部卒業。野村証券入社。米コーネル大学経営大学院でMBA取得。エクイティトレーディング部長などを歴任。みずほ証券を経て、AIJ投資顧問入社。12年解雇。

角川書店 1470円 216ページ

  

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