年金問題は解決できる! 積立方式移行による抜本改革 鈴木 亘著 ~国鉄清算事業団方式の改革案を提示
「年金は、世代と世代の助け合い」。これは、厚生省(現厚生労働省)がかつて好んで用いた標語である。たしかに公的年金制度がフェアなものであれば、このフレーズは社会的な連帯の意義を謳ったすばらしいメッセージということになる。
だが、現実には年金の給付と負担に世代間で著しい不均衡が生じており、年金財政も「100年安心」とはとてもいえない状況にある。「公的年金を損得勘定で考えてはいけない」という意見もあるが、民間のねずみ講だったら、こんな物言いをした途端に加入者がいなくなって、たちまち破綻してしまうことだろう。本書は、このような公的年金の「不都合な真実」についての明快な解説とすっきりとした解決策が盛り込まれた、興味深い一冊だ。
本書で提示されている改革案は、いわば「国鉄清算事業団方式」とでもいうべきものだ。そのポイントは、現行制度のもとでの年金給付とそれに見合う年金債務からなる旧勘定と、「積立方式」に基づく新たな年金制度の運営を行う新勘定に、新旧勘定分離を行うことにある。積立方式のもとでは、各世代の年金給付額が、その世代の拠出金の運用成績に依存する形で決定されることになるから、後世代へのツケ回しが今後も拡大していくという事態を回避することができる。
野田内閣は今月にも社会保障制度改革国民会議を発足させ、最低保障年金の創設を含む、社会保障制度の抜本改革に向けた検討に着手することとなっている。社会保障と税の一体改革については「増税先行」との批判が根強くあるが、このような批判に答えるためにも、本書に示された現行制度の問題点や制度改革のアイデアなどを十分踏まえ、丁寧な議論をしていくことが望まれる。
すずき・わたる
学習院大学経済学部教授。1970年生まれ。上智大学卒業、日本銀行入行。退職後、大阪大学大学院経済学研究科博士前期課程修了、後期課程単位取得退学。日本経済研究センター、大阪大学大学院助教授、東京学芸大学准教授などを経る。
日本経済新聞出版社 1260円 190ページ
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