日本一地味な村、阿智村に人が殺到するワケ 長野県の温泉地はこうして蘇った!
しかしわずか4年前の2011年。状況はまったく違っていた。1973年に出湯した昼神温泉は、まだ歴史が浅い温泉郷である。名古屋から中央自動車道で2時間足らずという好立地であることが幸いし、昼神温泉には中京圏の企業団体客が殺到、売り上げも右肩上がりで成長した。昼神温泉は1990年代には絶頂期を迎え、2005年の愛知万博までその集客力を維持していた。
が、その後5年間で、宿泊客は25%も減った。昼神温泉の旅館同士は、「隣の旅館に団体客が入った。ウチも負けられない」と客を奪い合う値引き合戦を行い、客数減に加えて宿泊単価も下落の一方。収益は急速に悪化し、廃業する旅館も出始めていた。
こんな中で、「このままでは昼神温泉は急速に衰退する。自分たちの子供たちの世代に、阿智村を渡せないかもしれない」と大きな危機感を持つ人たちもいた。旅館「恵山」で企画課長を務めていた松下仁さんも、その一人だった。
ある日、松下さんは旅行会社大手・JTB中部の武田道仁さんと出会う。武田さんは、地域と一緒に魅力ある観光資源を開発するプロフェッショナルだ。2人は、阿智村をより魅力的な観光地にするためにはどうすればよいかを話し合いはじめた。この2人の出会いが、「日本一の星空ナイトツアー」のはじまりだった。
探し求めた、阿智村「本当の強み」
2人は「そもそも阿智村の強みとはなにか?」を話し合った。阿智村の観光の中心である昼神温泉には、年間70万人が訪れ、宿泊客も35万人をかぞえる。では阿智村の強みとは、この温泉だろうか? 実際、「仕事で疲れたから、温泉にでも行こう」と考える人は多い。一見すると温泉は消費者のニーズは高い。
ここで消費者から見た温泉地を考えてみたい。日本全国に温泉地がいくつあるか、ご存じだろうか? 日本温泉研究所によると、宿泊施設がある温泉地は2013年には3159カ所ある。バブル絶頂期の1990年は2360カ所だったから、23年間で34%も増えているのだ。この間、日本の人口は3%しか増えていない。つまり温泉市場は、限られたパイを争ってお互いに激しい競争を繰り広げる、「レッドオーシャン」とも言える。
ではこのような状況で、温泉を売り物にして消費者にアピールできるだろうか? 確かに「すばらしい温泉」を売りにして成功している温泉郷は、いくつかある。しかし実際にはそのような温泉郷も、売りは温泉だけではない。たとえば情緒ある町並み、歴史ある湯治場のエピソード、あるいは郷土料理と組み合わせて、温泉の価値を高めているのだ。
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