日本一地味な村、阿智村に人が殺到するワケ 長野県の温泉地はこうして蘇った!

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これはビジネスパーソンが「当社の強みとは何か?」を考えるうえで、大きな示唆を与えてくれる。「自分たちが強みだ」と思っていても、実はライバルができることだったり、顧客が意味を感じないものは、強みではないのだ。

企業の強みを考える際には、経営学者ジェイ・バーニーが提唱する「VRIOフレームワーク」が参考になる。バーニーは、顧客にとって価値があり(Valuable)、希少であり(Rare)、模倣しにくく(Inimitable)、かつ組織的な取り組みがあること(Organization)が、持続可能な「固有の強み」の条件であると述べている。

このVRIOフレームワークで改めて阿智村の強みを考えてみよう。まず昼神温泉は強アルカリ性で「美人の湯」と言われている。しかし日本各地には、すでにトップブランドを確立している温泉郷は多数ある。つまり「顧客にとって価値がある(Valuable)」が、必ずしも「希少(Rare)」ではない。

花桃の庭園は日本一だが……

実は阿智村には日本一のものがある。花桃の庭園だ。4~5月にかけては5000本の花桃が咲き乱れ、まさに桃源郷だ。しかし花桃は1年間で2週間しか咲かない。残りの50週間は観光客にアピールできない。つまり「希少(Rare)」であり「模倣しにくい(Inimitable)」ではあるが、「顧客にとって価値がある(Valuable)」のは1年間のうち2週間だけ。年間を通じた集客効果は期待できない。

松下さんと武田さんが議論をしている最中に、こんな話が出た。阿智村には「ヘブンスそのはら」というスキー場がある。ロープウェイで15分をかけて麓駅から山頂駅にあるスキー場へ移動する。松下さんたちは、このスキー場スタッフの一人が、夏の夜中に彼女とゴンドラに乗り、山頂のスキー場に行っているという噂を知った。実はそこで見える満天の星空を、彼女と2人っきりで楽しんでいたのだ。

もともと四方を南信州の高い山々に囲まれている阿智村は、星空がきれいだとの定評があった。そこで昼神温泉のいくつかの旅館は、夏は肝試しと組み合わせて無料で天体観測を行っていた。しかし温泉郷では旅館の照明が明るいので星はよく見えない。これが山頂にあるスキー場ならば、光がすべて遮られ、すばらしい星空が見える。しかも2006年、環境省は阿智村を「日本一星空の観測に適した場所」と認定していたのだ。

VRIOフレームワークに当てはめるてみると、この「星空」が大きな強みとなる可能性があることがわかる。まずスキー場スタッフのような「若者カップル」という顧客層にとっては、大きな価値がある(Valuable)。しかも花桃とは異なり季節も問わない。さらに「日本一の星空」なので希少(Rare)だし、真似しにくい(Inimitable)。まだ組織的な取り組み (Organization)はないが、これはこれから作っていけばいい。

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