なぜ国家は壊れるのか イタリアから見た日本の未来 ビル・エモット著/烏賀陽正弘訳 ~共通した国家目標なしの勝利は難しい
停滞するイタリアの「グッド」な面と「バッド」な面を綿密に実証しつつ、現代国家の発展の可能性とその難しさとを描いた本である。副題には「イタリアから見た日本の未来」とあるが、日本に関して多く触れているわけではない。しかし含意するところはとても大きい。
著者によって紹介されるバッドなイタリアを知ると、日本と同様にかつては輝いていた国が、なぜ「破綻」の瀬戸際にあるのかがよくわかる。
いったん正規雇用をすると、人員整理がとても難しく、企業活動を拘束する「労働法」。あるいはあらゆる職業の人たちが、新来者が自分の職業の邪魔にならないよう、既得権益を守るギルドのような仕組み。そして暴力(マフィア)と結び付く政治。メディアも政治家の利権の場であり、あてにならない。
だが起業家精神に支えられたグッドなイタリアもある。たとえば「将来は明るすぎて、サングラスが必要だ」として世界中で6万人雇用する世界最大のメガネのメーカー。
あるいは米国や英国を含め世界の空港のレストランや免税店を営み、高速道路やガソリンスタンドでもレストランや小売業を運営し、やはり6万人を超える従業員を雇用する企業など、そこではサービス業と製造業の区別はない。
とかく人は「経済と社会には成功モデル方式があり、みんながそれに追従する必要がある」と考えがちだが、著者は「どの国も『成功の収め方』は異なっている」と指摘している。まったく同感である。
どの国もグッドがバッドを乗り越えたときに輝くが、「共通した国家目標」を持てない国でグッドが勝利するのは難しい。自分(たち)のことだけを考えるバッドが勝つわけではないにしても、だ。
Bill Emmott
ジャーナリスト。1956年生まれ。英オックスフォード大学で政治学、哲学、経済学の学位を取得。英誌『エコノミスト』のブリュッセル支局を経て、東京支局長として日本に滞在。その後、ビジネス部門編集長、93~2006年同誌編集長。
PHP研究所 1890円 293ページ
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