気仙沼市を揺るがす巨大海岸堤防計画、被災地住民を翻弄
巨大堤防は漁業関係者の間でも評判が芳しくない。市北部の大沢漁港のように、堤防建設に住民の同意が得られた地区もある。しかし、多くの漁港では堤防の建設を強く求める声は上がっていない。唐桑半島の舞根2区では、海岸堤防の計画撤回を求める要望書が住民から菅原茂気仙沼市長宛てに提出されている。
堤防偏重の防災計画 住宅再建もままならず
気仙沼市南部の蔵内漁港を拠点に仲間の漁師とともにワカメの養殖を営む及川浩之助さんは、「船着き場の地盤カサ上げや港内のがれき撤去を何よりも急いでほしい」と語る。その一方で漁港を取り囲む堤防計画については、「漁港の後背地に住んでいた人は高台に移転することを決めているから、堤防を造る必要性は乏しい」と疑問を投げかける。「国道を守る必要があるというのなら、今の道路を堤防で守るのではなく、国道そのものを高台に移転してほしい」と及川さんは言う。
海岸堤防に依存した防災計画は、市街地での住宅再建も阻んでいる。
震災による地盤沈下が著しい気仙沼市では、住民の間から盛り土による住宅地カサ上げの要望が強い。しかし、「私有財産の形成を補助することはできない」という理由から、土地区画整理事業用地や水産加工施設の集積地などごく一部を除けば、国の支援措置は存在しない。
気仙沼市は7月29日、市を来訪した安住淳財務相に復興に関する要望書を提出。その中で「現行制度で対象とならない土地のカサ上げに対する補助制度の創設」を求めた。だが、震災から1年半が経過した現在、返答は得られていない。