気仙沼市を揺るがす巨大海岸堤防計画、被災地住民を翻弄
支援策が乏しいことから、住宅再建が行き詰まっている人も少なくない。市内の仮設住宅に住む阿部義則さんは大川を駆け上がってきた津波で自宅が全壊する被害を受けた。阿部さんの自宅があった南郷地区では倒壊した家屋のほとんどが撤去され、多くの人が避難生活を強いられている。
津波を目の当たりにしたうえに、地盤沈下も激しいことから、阿部さんは元の土地での住宅の再建は不可能と判断。二十数戸に上る地区の住民とともに「防災集団移転促進事業」(防集事業)に基づく高台での住宅再建に望みを託してきた。市も住民の取り組みを後押ししてきたことから、これまでに会合を重ね、移転用地も決まりかけていた。
ところが、そのさなかの7月9日、南郷地区が防集事業の前提となる「災害危険区域」に含まれないことを示す告示が出たことで事態は暗転した。新たに建設される堤防により、100年に一度の津波であれば浸水被害は起こらないというのが、災害危険区域から外された理由だ。
気仙沼市では13・8平方キロメートルが災害危険区域に指定された反面、津波で半壊以上の被害を受けた住宅の4割が危険区域外。これらの地域に自宅を持っていた人への国の支援策が存在しないことから市は独自に利子補給などの支援策を打ち出したものの、財政難から十分な金額を確保できていない。
莫大な予算が投じられる一方で、必要な支援の手が届かない被災地の再建。巨大海岸堤防の建設は、その矛盾の象徴だ。
(岡田広行 =週刊東洋経済2012年9月22日号)
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