気仙沼市を揺るがす巨大海岸堤防計画、被災地住民を翻弄
突然示された計画に反発する気仙沼市民
内閣府の中央防災会議・地震津波対策専門委員会(昨年6月26日)での「今後の津波防災対策の基本的考え方」を踏まえて、宮城県沿岸での海岸堤防のおおよその高さが決まったのは昨年9月9日。しかし、地域住民への周知は大幅に遅れた。
個別の海岸ごとの堤防の高さ(計画堤防高)が気仙沼市民に示されたのは今年7月に入ってからだ。宮城県は7月11日から29日にかけて気仙沼市内の12カ所で説明会を開催。最も計画堤防高が高い地区では、T.P.+14・7メートルに達することが住民に初めて明らかにされた。
大谷地区では7月17日に約140人の住民を集めた説明会が小学校の体育館で開催された。ところが、国や県の説明に住民から疑問の声が続出。「9・8メートルの防潮堤は生活に障害が出る高さだ」「大きな堤防を設置すると津波が見えなくなるので危ない」「堤防だけではなく、避難施設や避難路の整備を優先して行うべき」といった意見が相次いだ。
海岸堤防の建設は、5年間で19兆円が予定されている震災復興の中でも、最大級の事業の一つだ。国や宮城県など七つの部署を対象にした本誌の聞き取り調査によれば、宮城県内で計画されている海岸堤防の総事業費は5000億円近くに達する。被害額(復旧事業費)とされる約2180億円をはるかに上回る巨額だ。そのうち気仙沼市内の海岸に投じられる金額は、堤防のカサ上げを含む災害復旧工事だけで1300億円余り。新たに建設が予定されている堤防を含めると2000億円近くに上るとみられる。
だが、その結果として起こりうるのが、海岸の多くがコンクリートの護岸で固められるという事態だ。