デキない人を狙う自己啓発セミナーの正体

それは米国の学者が編み出した「発明」だった

これがのちに日本にも上陸し、「感受性訓練」と呼ばれるようになるリーダー育成研修の嚆矢となったのだ。

Tグループとその広がり

Tグループとして1950年代以降、アメリカで見られたのは次のようなパターンである。人数はだいたい20名弱、楕円の机にすわり、ずっと話し合いをする。期間は2~3週間。グループメンバーは苗字ではなく名前で呼びかける。

話し合いといっても議題は用意されていない。何を話してよいかわからないので、参加者は不安になる。高い参加料金を払って、もしかすると何も学ぶものがないのではないか、と考えるとさらに不安になる。実際に、そう発言する参加者が出てくる。

司会者を選出しようとすると、そんな必要はない、といわれる。参加者同士は、もともとつながりがない。発言すると、とんちんかんだ、と言われる場合もあり、さらには、「あなたの話し方が嫌だ」と断言されることもある。最初はいらいらしたり怒ったりするものの、Tグループの最終期日に至る際には、いやでも自分を見つめなおし反省せざるをえない。

Tグループは善意的な研究によって開発されたものだ。しかし、後年の自己啓発セミナーが洗練させたように、参加者をまず不安に陥れ、現状を否定し、そして真の自分を見せる、といったパターンの原型が見られる。

教育者であった九州大学(当時)・関計夫さんは、1959年に渡米し、Tグループに参加した経験を素直に、こう記している。

<わたしはTグループを感情の訓練であると思うようになった。事実この会合で言われたことに腹が立って、二日間も眠れなかったという人がある。あるいはもう一切、口をきくまいと決心した人もある。そうすると必ず、「今日はどうして黙っているのか」という非難がくる。引っ込み思案になったり、腹を立てたり、片意地になったり、悲しくなったりする。

許容的雰囲気とは正反対に、警察や裁判所にいるような緊張した気分が支配する。つるし上げがしばしばなされる。(中略)自我を脱却し、自分に対してあたかも他人に接した時のように、客観的な態度をとることが必要である>(「教育技術」1959年2月号)

ここに自己啓発セミナーがのちにすくいあげた肝要点があるように私には感じられる。

日本人は、すぐさまホンネで言い合えるか。そう問えば、おそらく難しいだろう。まったくそれまで知らない者同士だから、Tグループのあいだだけの関係だ、といっても難しいかもしれない。すくなくとも昔の日本では、やや導入に慎重だった。前述した引用の雑誌は1959年だが、そこから日本へはゆるやかに伝わっていった。

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