デキない人を狙う自己啓発セミナーの正体

それは米国の学者が編み出した「発明」だった

ただし、自己啓発ビジネスを批判も肯定もしないスタンスを私はとる。あくまでも淡々と、事実と考察を述べていく。読者は騙されない防御力をもつかもしれないし、もしかすると新たな自己啓発ビジネスを開始するきっかけになるかもしれない。自己啓発ビジネスの常套句にしたがえば、それは「あなたしだい」だろう。

自己啓発ビジネスの源流

自己啓発ビジネスの歴史をひもとくと、ひとりの学者にいきつく。アメリカの心理学者クルト・レヴィン。彼が結果として発明した「Tグループ」が、形を変えて、現代の自己啓発ビジネスにつながっている。

レヴィンは、ひとが集団のなかでどのように行動するか、そして集団全体の行動を研究した。集団がもつ力を明確に理解できれば、個人と集団を望ましい方向に導くことができる。レヴィンはいまでも通じる「グループ・ダイナミクス」という考え方を1939年に発表し、集団の心理的まとまりを記述した。

レヴィンはドイツからアメリカに移り市民権を獲得した。「私たちアメリカ人」と自称し、彼は完全なアメリカ人になりきろうとし、「アメリカの風俗や習慣を完全に自分のものにして、たくさんの友だちをびっくりさせた」(「クルト・レヴィン その生涯と業績」A・J・マロー著)。自己啓発の祖が、ある意味、環境的に自分を変えることを求められ、みずから率先してそれをやってのけたことはきわめて興味深い。

そして決定的だったのは1946年だ。コネティカット州の要人がレヴィンに電話をかけた。当時の課題は、雇用上の人種差別をなくすことにあった。そこで、教育関係者を集めトレーニングを行い、そこでの体験が現場でどのように活かされるかを検証する必要があった。レヴィンらは、その場で参加者たちを観察し、発達過程を調査した。

そこで偶然が作用した。トレーニングの終了後になにもすることがなかった参加者が、そのレヴィンらの研究者報告会にも顔を出したのだ。自分たちの行動がどのように研究され、どのように報告されているかを知った参加者は、新鮮な、しかし奇妙な思いにとらわれた。

たとえば参加者がなにか行動したり発言したりする。その内容について、研究者や他の参加者が違った解釈をしたり、違う思いを受け止めたりしていたのだ。話す側と聞き手に認識のギャップがあるのは当然ではあるものの、参加者には新鮮だった。そして、自分の行動が他者からどのように思われているのか理解した参加者は、自分の行動に敏感になっていった。

研究者やワークショップのファシリテーターが介入するよりも、参加者同士の議論によって、深い理解に至り、ときに深く傷つき自分を見つめなおし、さらに思考法の変換までが実現した。トレーニング・グループはTグループと呼ばれ、ただただ受講者が受講者と話すことで自己変革を迫る形がここに始まった。

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