正しくサボらないと仕事は効率的にならない 意識の高い日本の人事制度にモノ申す

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そういった問題に直面した際に「人事制度もA/Bテスト」(三好氏)という考え方も重要であろう。A/Bテストとは2つ以上の方法を試してみて、最も効果のあるやり方を探ることである。「一回みんなでやってみる“ノリ”も重要。数字として何に結びつくかわからない、でも何かに結びつきそう、それによって絶対に変わるんだという直感があれば、まずはやってみて、色んな数値を取っていたら変わっていた、という後付けでも構わない」と、カヤックのあるエンジニアも言っていたが、現場のノリを犠牲にして、人事と現場の温度差を生み出すくらいなら、ある程度の失敗を容認することのほうが得策ではないだろうか。

なお、指標問題に関しては、数年で解が導き出される問題ではないと思われ、残念ながらアラート(警鐘)を鳴らすことは現時点では現実的ではない。その間は、私も愛用し、リクルートなど一部のIT企業では企業導入も進む「PCスーツ」(「休めない」日本人がどうにか休むためのコツ」2015年11月07日配信参照)のような、リカバリーウエアを着るなどして、働きながらにして休むことも選択肢のひとつだろう。

燃え尽き健康経営対策は強制的に辞めさせる

昨年末のストレスチェックの義務化もあり、健康経営への取り組みを表明する企業も見受けられるが、数年後も実態の伴った運営が継続されているケースはどのぐらいあるだろうか。日本人はあまり意気込み過ぎずに、適度に休息を挟まないと物事はなかなか続かない。

健康やダイエットのためにランニングを始めた人を例に取ってみよう。デサントの調査によると、ランニングを始めたものの、半年以内に挫折するランナーは約7割に上る。よくある日本人の傾向が完璧主義過ぎること。1カ月のうちに5~6回も続けば十分なのに、1日でも続かないと「自分には向かない」「諦めよう」と考えてしまうのだ。

これに対してカヤックの考えた対策は、意気込み過ぎる前に、一定期間で強制的に辞めさせる、という考え方だ。一定期間で強制的に辞めさせることで、前述の「人事制度のA/Bテスト」を運用することも可能となる。

さらに、歩数などの数値を敢えてランキング化しないことでも、燃え尽きを防止していくのだという。これはソーシャルゲーム事業も展開するカヤックらしい考え方で、「一部の人間をモチベートさせればよい施策と、全員をモチベートさせねばならない施策は似て非なるもので、ランキングは前者。そもそもランキング入りする人間は、組織的な取組みがなくとも自分で続けられる人間で、会社として支援しなければいけないのは、ランキング入りしない社員」と三好氏は言う。

カヤックの柳澤大輔社長は自身のブログで「『健康経営』、若干流行りのキーワードである感じは否めません。また、健康領域のビジネスへの注目度が高いのもご存じのとおりです。ただ、今は流行りだとしても一過性のものではなく、人間の営みの中においては不可逆的なもののひとつ」と記述している。

カヤックの健康経営は一過性になるかもしれない。それでも年寄り臭さが漂い、現場と人事の温度差が生まれる施策よりも、一歩進んだ健康経営を体現する可能性はある。

西多 昌規 早稲田大学教授 早稲田大学睡眠研究所所長 精神科医

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にしだ まさき / Masaki Nishida

東京医科歯科大学医学部卒業。ハーバード大学客員研究員、東京医科歯科大学大学院助教、自治医科大学講師、スタンフォード大学客員講師などを経て、現職。日本精神神経学会精神科専門医、日本睡眠学会専門医、日本老年精神医学会専門医など。専門は睡眠医学、身体運動とメンタルヘルス、アスリートのメンタルケアなど。著書に、『休む技術』『休む技術2』(大和書房)、『悪夢障害』(幻冬舎新書)、『自分の「異常性」に気づかない人たち』(草思社文庫)などがある。

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