美根:これは日本人がわからないだけでなく、誰にもわからない。アメリカ人にもわからない。“中国”という観念的なものがあり、中国人にとってははっきりとした意味があるんです。他国の人は“中国”と“中華人民共和国”の区別がないから、わからない。だから話がややこしくなる。中国の指導層が心配しているのは中華人民共和国が無くなるかもしれないということです。
木本:なるほど。それを守らないといけない。
中国が危惧する「和平演変」とはなんだ
美根:守らないとこれまで八路軍から営々と築いてきた共産党が全部崩れて、歴史が無くなる。それは命を賭して守りたいわけです。
今の中国には「和平演変(わへいえんへん)」という言葉があります。これは、西側諸国が、中国国内の反体制派などを使って、平和的な転覆を狙っているのではないか、という陰謀論のようなものです。つまり、今の中華人民共和国を倒そうと思っている国があるという認識を指導者たちは持っているんです。
木本:そうなんですか。あんな大きい国を転覆させようなんて誰も思わないのでは?
美根:私もそう思いますが、体制の維持は大きな問題なんです。鄧小平はかつて、「数十年先かわからないが、将来は民主主義の国になる」と言いました。それはほかの指導者も口にしていています。歴史を振り返れば千年も続いた王朝など一度もなかったわけです。向こうの人たちは「革命は起こる」という発想が頭に常にある。
木本:資本主義と共産主義の争いは昔に比べてマイルドになっているじゃないですか、共産主義の意味が薄れていますよね。
美根:中国が実践している共産主義において、なにが政治的にいちばん先進的かと言うと、労働者と農民です。つまり無産階級が国をリードするのだ、というのが共産主義の本来の考えです。したがって、労働者と農民はいちばん高い地位を与えられていました。しかし経済が発展して状況が変わってきた。
木本:資本主義的な経済を取り入れていますものね。
美根:経済が大きな比重を占めるようになった結果、今は10の階層になっています。いちばん上が国家の指導者、次が大企業のトップ、次が私営企業家であり、労働者・農民は8番目と9番目になっている。この意味では、もはや共産主義でなく資本主義的官僚主義なのです。このように見れば、共産主義も変わるのです。いままさに実践している中華人民共和国が別の体制に変わってもなんら不思議ないのです。
木本:共産主義の拳をいつ、どのように下ろすか、長い時間かけて考えているんですか。
美根:議論はずっとされています。薄煕来(はくきらい、ボー・シー・ライ)という重慶市長がいました。日本にも縁が深い人ですが、彼はやり手で大連にいたときに外資系企業をたくさん誘致し発展させました。同時に毛沢東の政治手法を取り入れました。
「革命路線が大事だ。官僚、革命の功労者の家族が美味い汁を吸うのはよくない。一般の労働者のために政治をやらなければ」と旗を振ったので人気がありました。しかし、政治的野心もあって2012年に失脚しましたが、彼が支持されたのは、今の共産党中央のやり方がおかしいと思っている人が多いからです。おそらく全人口13億人の半分はおかしいと思っているのではないでしょうか。
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