ワイン造りの思想 その2 テロワール主義《ワイン片手に経営論》第13回

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■「産地」と「ブドウ」の関係

 テロワール主義的思想が根付いている産地の代表が、フランスです。フランスにワイン造りが伝わって以来、千年以上の伝統があり、こうした長い歴史のなかで、それぞれの産地に適したブドウ品種も選び抜かれてきました。まず、土地がありきで、さまざまなブドウ品種が試されてきたということです。そして、現在のフランスでは、長年の経験をベースに、どの産地がどのブドウ品種と相性が良いかが知られており、法律でも産地とブドウ品種の関係が定められているぐらいです。

 例えば、先ほどご紹介したChablis Grand Cruという産地で造られたワインであることをラベルに表示するためには、ブドウ品種としてシャルドネのみを使わなくてはならないと法律で定められています。また、ムートン・ロートシルトがあるPauillacという村で造られたことをラベルに表示するためには、カベルネ・ソーヴィニョン、メルロー、カベルネ・フラン、カルメネール、マルベック、プチ・ヴェルドのいずれかを使わなくてはなりません。

 こうした産地とブドウ品種の組み合わせは、フランスにおいて1935年に法律で規制されるようになりました。本コラムの冒頭でも簡単に触れた「原産地統制呼称 (Appellation d’Origine Controlee)」と呼ばれるものです。この考え方は、もとはというと、ジョーゼフ・カピュースというフランスのジロンド県選出の下院議員によるものです。

 ことの発端は、1925年のチーズ騒動でした。現在高級チーズとして有名なロックフォールは、羊乳が原料です。当時も、フランス南部中央高地のアヴェロンにある山岳地方でしか製造できない限られた地域の製品として認められていましたが、羊の乳ではなく、牛の乳で作ることがありました。この問題を指摘したのが、ジョーゼフ・カピュースで、同じような問題がワインにおいても起きていることを彼は知っていたのです。こうした騒動から、法律に次の文言が盛り込まれました。「地方に定着した特有のすばらしい慣習によって、神聖なものとされたブドウの品種を用いる。(*1)」

 こうした経緯もあり、フランスではあるワインの産地がわかれば、そのワインがどのブドウ品種から造られているか自動的に分かるようになりました。その影響は、ワインのラベル表示にもあらわれており、フランスのワインは、伝統的にラベルに産地を明記しますが、ブドウ品種は明記しないやり方が一般的となったわけです。

 また、輸送に向いていないというブドウの特性もテロワール主義の方向性を後押ししました。ブドウの果皮は、柔らかいため破砕しやすく、有害な微生物によって直ぐに汚染されてしまうのです。したがって、ブドウは栽培したその土地ですぐに醸造し、ワインとすることが、ある意味もっとも最適なやり方だったのです。

 結局、「テロワール」と「セパージュ(ブドウ品種)」との間に、法律的にもブドウの特性的にも固定関係が出来上がっているため、「テロワール」と「セパージュ」の二つのパラメータに対してワインの造り手が出来ることは多くありません。そこで、次に着目されるパラメータが、「だれが造ったか」「何年に造ったか」の二つです。

 ワイン・ラベルには、産地以外にも、造り手とビンテージ(生産年)を記載しなければなりません。
*1 ヒュー・ジョンション、『ワイン物語 下』、平凡社
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