ワイン造りの思想 その2 テロワール主義《ワイン片手に経営論》第13回
「どの土地で造られたかが重要」という「テロワール主義」的思想は、事例写真において特級畑(Grand Cru)と明記されていることからも良く分かると思います。フランスのブルゴーニュ地方では、最も美味しいワインが造られる畑は特級畑、その次が一級畑(Premier Cru)といったように法律で階層化され、「このワインはどの畑で造られたか」まで特定できるようになっています。
一級畑の次の三番目のレベルになると、畑は特定されず、村名または地区名だけが記載されます。例えば、単にChablisという地区名だけ記載されます。「このワインは、どこの畑で作られたかまでは分からないけれども、少なくともChablis地区で作られものです」ということをあらわしているのです。
もう一つ別の例をご紹介したいと思います。
こちらは、フランス・ボルドーのムートン・ロートシルトというシャトー(ワイナリー)が造ったワインのラベルです。このシャトーは、ボルドー地区にある何千というシャトーのなかで、法的に定められた格付けでトップ5に数えられる有名なものです。毎年、著名なアーティストにラベル上部の絵をデザインしてもらうことでも知られ、1973年にはピカソもラベルの絵を描きました。
1991年のデザインは、日本人の出田節子さんの絵です。出田節子さんは、1962年に東京を訪れていたフランスのバルタザール・ミシェル・クロソウスキー・ド・ローラ伯爵、通称バルテュス伯爵に見初められ1967年に結婚。以降、バルテュス伯爵夫人として生涯を過ごされた方です。
バルテュス夫妻はともに芸術的才能を持ち合わせ、1993年にはバルテュス伯爵自身もムートン・ロートシルトのラベルをデザインすることになります。夫婦そろってムートンのラベルを描いたのは、バルテュス夫妻のみです。
さて、このラベルの場合は、先ほどのシャブリとは違い、畑名は出ていません。ラベルからうかがえるのは、「1991」というビンテージ、「Chateau Mouton Rothschild」というシャトー名、そして 「PAUILLAC」という村名です。
ブルゴーニュにある先ほどのシャブリとは、記載内容が若干異なりますが、テロワールの思想をくんでいることが分かります。シャトー名は、すなわちそのシャトーが保有する畑からとれたブドウを使っているということですから、本質的にはテロワール主義的な「土地に根ざした考え方」に従っています。