川添高志・ケアプロ社長--日本の健康診断費をワンコインにする男
「日本にはトヨタ自動車、ソニーといった有名な企業はあるのに、医療機関でいい経営をしている会社はないよね」
日本にも世界に誇る医療技術を持つ医者や病院はたくさんある。だが、技術があっても、それを生かす経営がなければ宝の持ち腐れだし、うまくマネジメントできなければ、医療全体の質も下がってしまう。あらためて医療経営を学ばなければ、と痛烈に感じた瞬間だった。
米国ではさらに大きな収穫もあった。それが「インストア・クリニック」。小売り大手のウォルマートやドラッグストアの店舗内で営業し、簡易医療を提供する店だ。
そこでは医師と看護師の中間の職種に当たる「ナース・プラクティショナー」が、限られた範囲ながらも、診察したり処方箋を出したりする。客は予約なしで買い物の途中に気軽に寄れるのが特徴で、公的保険制度のない米国では地域医療の一翼を担っている。
「日本でも保険証を持たない人が増加しているし、医師不足も深刻になりつつある。同様のサービスを日本でやれるのでは?」。これがケアプロの原型となる。
「利用者自ら採血」で医者不要の健診を可能に
ただ日本と米国では医療事情が異なる。米国は医療保険への未加入者が多く、簡単で便利なインストア・クリニックのニーズは高い。一方、国民皆保険制度が確立された日本に予防医療の需要はあるのか。起業するには、もう少し研究が必要だと判断し、大学4年時から卒業後の2年間は医療関連のコンサルティング会社に勤務。さらに、現場で予防医療のニーズを酌み取るため、東大病院に転職した。
勤務した糖尿病の病棟には、中高年だけでなく、若いフリーターの患者や自営業者が少なくなかった。彼らに話を聞くと、案の定、不摂生な生活をしている。
会社員なら会社が健診を実施しているが、フリーターや自営業者などは強制されなければ、なかなか受診に足が向かない。またおカネがなかったり、保険証を持っていない人は病状が悪化しないかぎり病院には行かないケースが多い。