《財務・会計講座》ファイナンス理論と株式投資~ファイナンス理論をマスターすると株で儲けられるか~

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《財務・会計講座》ファイナンス理論と株式投資~ファイナンス理論をマスターすると株で儲けられるか~

経営大学院でファイナンス理論を教えていると必ず学生から、「ファイナンス理論をマスターすると株式投資で儲けられるのでしょうね?」という質問を受ける。このような質問に対する私の回答はいつも決まっている。「それが事実なら、私はここで皆さんにファイナンス理論を教えていないで、PCの前で株式の売買をしているでしょうね」。

■株式投資はリスクが高いがリターンも高い

 ファイナンス理論はむしろ、株式投資で大儲けすることは難しいことを教えてくれる。株式は、企業が公表した事実はすべてその株価に織り込んでおり、公表されていないインサイダー情報を知らない限り、まぐれ当たりは別として、特定の株式を売買して継続的に大儲けすることはできない。しかし、未公表の重要事実をもとに株式を売買することはインサイダー取引となり、法律で厳しく規制されている。

 「ランダムウォーク」という言葉があるが、株価は新しい重要事実が公表されるたびに上下し、この結果、株価がどうなるかを予測することは、インサイダー情報を持っていない限り不可能である。さらに強い株価理論にいたっては、株価は公表されていない将来の事実もすべて織り込んでいるとしており、株価がどのように動くかは全く予測不可能である。

 それでは株式投資は無益かというとそうではない。株式投資は確かにリスクが高いが、リターンも高く、長期間保有していれば国債等の無リスク資産に投資するよりもリターンはかなり高くなる。

 例えば、年利1.5%の国債に投資し、30年間保有(利息は同じ金利水準で国債に再投資)した場合、100万円の元本は30年後には156万円となる(=100万円×(1+1.5%)^30)。

 一方、期待利回り(単利)が6%、良い年は21%、普通の年は6%、悪い年は−9%の年間収益率が期待できる株式に投資したとする。十分に長い期間投資を継続し、良い年、普通の年、悪い年の発生確率が夫々1/3ずつとすれば、その年間平均利回り(複利ベース)は5.29%(=((1+21%)×(1+6%)×(1−9%))^(1/3)−1)となる。30年間投資を継続したとすると、当初の元本100万円は30年後には469万円(=100×(1+5.29%)^30)に増加する。良い、普通、悪いの3パターンが均等の確率で出現している限りは、このパターンの時系列的な組み合わせがどのようになろうと、30年後の元本額は変わらない。しかしながら、短い期間しか投資できない場合は、これらのパターンの出現確率が1/3ずつとなる保証はない。例えば1年間だけだと−9%かもしれないし、2年間であれば−9%が連続するかもしれない。

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