上原明・大正製薬社長--薬事法改正は拡大の好機、『紳商』理念で新市場開拓

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--宣伝や情報提供のやり方も変える必要がありますね。

すでに変えつつあります。というのも、広告メディアが変わってきたという実感があるからです。たとえば地上波のテレビ番組は、全体的に視聴率が下がっています。逆に、BSやCSなど、決まったユーザーが見るチャンネルが増えてきました。たとえば私の大好きな時代劇専門チャンネルで、健康食品の宣伝をすると非常に反響がいい。キー局のゴールデンタイムに流すより広告費も抑えられます。これからは視聴率の高さではなく、どういう層が見る番組なのかによって、商品の特徴と照らし合わせて選んでいくべきです。

--持続的な成長を踏まえて、ステークホルダーへのメッセージは。

会社というのは社会に貢献しているからこそ、その存在が許されています。われわれの場合、生活者の健康を守り、そして病気を治し、美容に貢献するというのがあるべき姿です。それを通じて雇用を守る。その後に株主に対する配当があります。

ところが、ここ数年間、配当ばかりが優先されてしまい、投資ファンドの一部からは「リストラしてでも配当を」との声まで上がっていました。これは、やはりおかしい。ブランドの成長には時間がかかるものです。長期的に次の手を打ちながら、既存のブランドを育成していく。その中で残った資金を配当としてお返しする、というのが基本です。

創業者の上原正吉は常々、紳士の商売、略して「紳商」をモットーとしてきました。独り勝ちではなく、社員、取引業者、顧客、株主らと、互いに利益を享受できる関係を築く商売です。長期的な視点でモノを判断することが大切です。

--短期的な戦略は誤りだと。

短期的にも長期的にもよければ、誰も何の反対もせず皆がやる。どちらも悪ければ誰もやらない。短期的にメリットはないが、長期的にやるべきことは、皆手掛けようとする。

最も迷うのは長期的に見ると絶対に悪いが、短期的にはメリットがある場合です。ついつい誘惑の手が出ます。ただ、一時的に売り上げ数字が上がるが、翌期にはにっちもさっちもいかなくなるのが通常です。

これには、私自身の反省があります。2006年、3回の業績下方修正をしました。短期的な成果を求め、06年より前の数年間、期末に押し込んだツケが回ってきたのです。

ですから、今は売り上げの数字は一切追いません。営業はどうすれば店頭で商品が売れるかということに専念し、小売りの販促活動をサポートします。数字よりプロセスの評価に変えたことで、流通在庫が急減し押し込み営業もなくなりました。

--3月末、2人のご子息を副社長と常務取締役に昇格させる人事を発表されましたね。

社長就任27年目、68歳ですから世代交代は当然考えています。当社はオーナー企業ですが、大切なことは“オーナー”としての意識を持ち、会社の将来を考えた経営をすることです。世の中に貢献すること、社会的な存在意義を理解し、それを判断基準として持ち続けられる人に後を継いでほしいと思っています。

(鈴木雅幸、前野裕香 撮影:梅谷秀司 =週刊東洋経済)

うえはら・あきら
1941年、東京都生まれ。66年慶應義塾大学経済学部卒業、日本電気(現NEC)入社。77年大正製薬入社。専務、副社長などを経て82年から現職。

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