高血圧と人類、その長い戦いに訪れた「転機」 人と病の100年、治療・創薬はどう変わった?

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そして、最も新しいタイプの降圧薬が、血管を収縮させて血圧を上げるアンジオテンシンⅡという物質の働きを阻害するARB(アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬)である。

世界で初めてのARBの候補物質は、1981年に武田薬品によって合成された。しかし、ヒトで十分な降圧効果が得られず、同社は開発を断念している。ところが、米国デュポンが、武田の特許を巧みに避けながらこれを改良したロサルタン(ニューロタン®)を合成し、世界初のARBとしてメルクから発売された。

百花繚乱の中、武田が巻き返しに放った薬

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だが、武田薬品はあきらめなかった。その後巻き返して、ブロプレス®(カンデサルタンシレキセチル)を世に出し、ARBでは国内トップ、同社で史上最大のヒット商品に育てた。さらに特許切れも見越し、執念でより強力なアジルバ®(アジルサルタン)の創製に漕ぎ着けている。2012年に発売されたアジルバ(AZILVA)の名は“Azilsartan is the most valuable ARB”に由来するという。

高血圧人口は、世界では10億人を超えている。降圧薬市場も巨大なことから、群雄割拠、百花繚乱である。ARBは腎臓や心臓を保護する作用を持ち、降圧効果も高いとされるが、高価な薬でもある。降圧効果だけでは他社ARBと差別化できず、ディオバン®(バルサルタン)やブロプレス®の論文不正問題は、それ以外の効果(脳卒中や心筋梗塞の予防効果)を過大に見せてウリにしようとした、過当競争の産物でもある。薬には何の罪もない。

ともあれ、個人の症状により効き方にも副作用にも差があるし、血圧だけでなく血糖が高めの人、狭心症の人、塩分を排泄すべき人など、それぞれに適した降圧薬がある。

人類は、血圧を下げる術を手に入れた。でも、薬を使いたくない人、薬をやめたい人、薬の効き目が十分でない人は、減塩を筆頭に、生活習慣の改善をもっと真剣に考えるのが、生活習慣病の本筋だ。

塚崎 朝子 ジャーナリスト/博士(医学)・慶応義塾大学非常勤講師

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つかさき あさこ / Asako Tsukasaki

東京都世田谷区生まれ。読売新聞記者を経て、医学・医療、科学・技術分野を中心に執筆多数。国際基督教大学教養学部卒業、筑波大学で修士(経営学)、東京医科歯科大学で修士(医療管理学)。再生医療・新薬開発など生命科学に関する取材経験が豊富で、専門家向け・一般向け双方に分かりやすく解説。

著書に、『免役の守護者 制御性T細胞とはなにか』(坂口志文氏との共著、講談社)、『iPS細胞はいつ患者に届くのか』(岩波書店)、『世界を救った日本の薬 画期的新薬はいかにして生まれたのか?』(講談社)、『新薬に挑んだ日本人科学者たち』(講談社)ほか。

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