上野千鶴子さん「もっと戦略的に生きなさい」 “フェミバージン”の若い女性たちに伝えたい

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■上野語録7:母娘対決のタイミングを逃すな
私は18歳で家を出、できるだけ親元に寄りつかなかったの。私が43歳のときに母親は乳がんで亡くなった。介護もしたけど、すでに母は弱者になっていたから追い詰められない。対決の機会を逃しました。だから若い娘たちに言いたいのは、親とちゃんとした大人の関係を作るためには、母親が強者のうちに対決しなさいということね。

――結婚制度に違和感を持つと、これまで「当たり前」だったことが、おかしく思えて、確かに「短期的にはつらい」ですね。

そのせいか、私は18歳の時に家を出て、その後、あまり家に寄りつかなかった。母から見れば、結婚せずに仕事を続けている娘の生き方は、自分の人生を否定されるようなものだった、と思います。お互いいろんな不満を抱えていたはずだけど、私は母との対決を避けてしまったの。

タイミングを逃すと、母と娘は対決できない。何十年も経ったら、親は高齢者になってしまう。母の介護をしながら、つくづく思ったの。自分の目の前にいる弱者になった親を追いつめることは、もうできないなって。だから、親が強者のうちに、対決のタイミングを逃さないでほしいのです。そうすれば親にも限界があることがわかって、大人同士の許しあえる関係が作れると思うから。

■上野語録8:組織の中で戦うか、外で戦うか
戦うにしても、自分のスキルが通用する場所としない場所があるでしょう。例えば、会社という組織で戦うのが得意な人もいれば、組織の外で戦うのが得意な人もいる。自分が一番戦いやすいホームグラウンドを選ぶのは賢いと思う。 

――今ある男性有利のルールに適応することの危険を説きつつも、著書では、理不尽な世の中を生き抜くための戦略を書かれることも多いです。

そこは、意識してやってきました。フェミニズムのような社会運動をする人の中には、正義と原則を貫きます、という人もいますよね。私は少し違っていて、女であることの理不尽さについて考えずにいられない一方で、女に生まれたことを楽しみたい、とも思う。お洒落も好きだし。

人間に与えられた時間とエネルギーは有限だから、いつも正面からぶつかっていたら、消耗してしまう。知恵と工夫で、正面突破ほど大変ではなく、迂回して自分の要求を実現する方法もあるかもしれない。ストレートばかりでなく、フェイントをかけるのも必要。

言葉は、相手に「届いてナンボ」

■上野語録9:立ちはだかる壁は、迂回せよ
私は「省エネ殺法」をテクとして使ってきた。相手を蹴散らすのに自分のなけなしのエネルギーを使い果たしたら、やりたいことをやろうと思ったときに残ってなかったりすると、困るでしょ。だから、立ちはだかる壁を迂回したり、エネルギーをムダ使いしないようにもした。

――硬派なフェミニストでありつつ、コミュニケーションにおける柔軟性も重視している印象です。

ずっと、戦略的な発信を心がけてきました。「発信してナンボ」ではなく相手に「届いてナンボ」と思ってきたから。

私は20代、30代の時から、マスコミと上手く付き合うようにしてきました。自分なりにメディア戦略を考えた結果「私が向いているのは活字メディア」と思ったので、映像とは距離をおいてきました。ウェブは、先ほどWANのお話をしたように、積極的に活用しています。ウェブは「言葉」が生きる媒体。私の強みは「言葉」だと思っていますから。

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