上野千鶴子さん「もっと戦略的に生きなさい」 “フェミバージン”の若い女性たちに伝えたい

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さて、月8万円で生活することを受け入れて日本で働きたい外国人労働者がいたら、それを拒む理由は、市場主義の観点からは、ないですよね。

フェミニズムは強者の論理ではない

――自分の家事や育児を引き受けてくれる人が、ワンルームマンションを2人でシェアしていたら、依頼する側は罪悪感を覚えないでしょうか。

自分たちは能力があるから高い収入を得ている、と考える女性たちは、使用人を使うことに慣れていくでしょう。大正期の中産階級の典型的な中廊下式住宅はせいぜい60㎡、そんなところにも玄関わきの3畳、いわゆる「女中部屋」がありました。ワンルームをシェアするのとあまり変わらないでしょう。

当時の日本は身分格差が大きく、田舎の貧しい家から出てきた若い女性が、住み込みで家事育児をしていたもの。自分の手にあかぎれを作って洗濯する女性たちは「奥様」とは呼ばれなかった。最近また、経済格差が大きくなっているから、女性も高収入を得る人とそうでない人に分かれてきています。お金がある女性は貧しい女性を国内か国外、どこかから調達して家事育児を任せる。構造は同じ。再び身分社会が、今度はグローバルな格差をもとに、成立しつつあるようです。

■上野語録5:強いだけがフェミニズムではない
「フェミニズム」というものが登場して、男にできることなら女にもできる、女も強いと言い出したとき、わたしもその一翼を担ったには違いないが、内心ひやりとしていた。こんなことを言ってて、いいんだろうか。この人たちだって、そのうち齢をとるだろうに。

――「フェミニズム」が男と同じことを求めるものではなく、強者の論理でもないことが、よくわかります。

それはよかったです。フェミニストを「男と同じようになりたい女」と誤解している人がいまだに多いように思うの。そんな誤解を広めたのは男メディア。「そうか、キミたち、オレたちのようになりたいのか、そんなら女を捨ててかかってこい」って。

そんな女たちがいたとしたら、後から来た若い女たちに「ばっかみたい」と思われるのは当然。私たちは一度もそんなこと思ってもいないのにね。実際に会ったり話したりすると、「わたしの知ってたフェミとまったく違う」って驚かれる。で、「どこで知ったの?」と聞くと、大概マスメディアの情報ね。

――60代以上のフェミニストが何を求め、何を獲得してきたのか、若い世代に正しく伝わっていない気がします。

確かにそう。フェミニズムへの否定的なイメージを持っているのは、メディアのフェミバッシングを知っている30~40代。さらに下の世代はフェミニズムもそれに対するバッシングも両方とも知らない、いわば「フェミバージン」。

以前『女ぎらい』(紀伊国屋書店)という本を出した時、フェミニズムという言葉を使わずに、でもその理論から生まれた「ミソジニー(女性嫌悪)」という概念をキーワードに、今の日本のいろんな問題を分析したことがあります。若い読者から「新鮮だった」っていう感想をもらったの。うれしい反面、私たちが何十年もやってきたことが、若い世代に伝わっていないことがわかって、驚きました。

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