能力の低い人ほど、自分を「過大評価」する 気鋭の脳科学者が「ココロの盲点」を明かす

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ピフ博士らが最後に行った実験が、もっとも象徴的です。「自分は社会的地位が高い」と思って行動をしてもらう実験です。すると、下流階級の人でも貪欲さが増し、非道徳的な態度になります。つまり、モラルの低さは生まれつきではなく、その地位が作ったものだと言えそうです。

さらに面白いことは、「金欲があることは悪いことでない」と付け加えると、「実るほど頭を垂れる稲穂かな」はどこへやらで、下流階級者の尊大ぶりは、実際の上流階級よりもひどいものになりました。

単に有頂天で「天狗になっている」のか、あるいは、普段受けている仕打ちへの腹癒せなのかはわかりませんが、醜悪な心理を、見事に浮き彫りにした実験結果だと言えます。

最大の未知である、「自分自身」のトリセツを知ろう

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いかがでしょうか。認知バイアスは、そうとわかっていても、つい落とし穴にはまり、なかなか修正することができないクセです。だからこそ認知バイアスなのです。

人は自分のクセに無自覚であるという事実に無自覚です。他人のクセには容易に気づくことができても、案外と、自分自身のクセに気づかないまま自信満々に生きているものです。最大の未知は自分自身です。

本当の自分の姿に気づかないまま一生を終えるなんてもったいないーー。せっかく人間に生まれてきたのですから、自分の認知バイアスについて知っておくのは、決して悪いことではありません。

こうした考えが、私も40代の後半に入り、ますます強くなってきました。これに押され、ついに認知バイアスについての初心者向け解説書『自分では気づかない、ココロの盲点 完全版』(講談社ブルーバックス)を上梓する運びになりました。この本は、心の盲点を知るための手引き、いわば「心の辞書」です。

ただし注意してください。脳に偏見があること自体は罪ではありません。クセは脳のデフォルトです。そして偏見はときに生きることを楽にしてくれます。

しかし、だからといって、その偏見は必ずしも礼賛されるとは限りません。もし全員が自分の「正しさ」を妄信したままコミュニケーションすると、不用意な摩擦が生じかねません。

傾向と対策ーー。脳のクセを知っていれば、余計な衝突を避ける予防策になります。それだけではありません。脳を知れば知るほど、自分に対しても他人に対しても優しくなります。そして、人間って案外とかわいいなと思えてくるはずです。

人間が好きになる脳のトリセツ。そんなふうに本書を役立ててもらえれば著者望外の喜びです。

講談社『本』2月号より)

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