冒頭で述べたとおり、生物の問題は「知識型」から「考察型」に急速に変容している。つまり、試験場で初めて見る問題を、自分の素の頭で考え、答えを出さなければならない。本問も、進化の過程でくちばしの形状が変化したある鳥類において、その原因遺伝子の機能を調べた実験結果を、適切に考察できるかという点を見る問題だ。
図1に示されているように、種Aと種Bには共通の祖先がおり、種Aは祖先からくちばしが太く変化、種Bは短く変化を遂げているという。それぞれを調べてみると、遺伝子XとYの発現量(遺伝子が保有する遺伝情報がタンパク質合成を通じ具体的に現れる量)が異なり、遺伝子XやYがくちばしの太さや長さに何らか関係していることが推測される。
実験では、同じ鳥類のニワトリ胚で遺伝子X、Yまたはその両方の発現量を増加させ、くちばしの形状の変化を「発現量なし」のものと比較している。これは「対照実験」という手法で、科学の研究において、出てきた結果を精査・検証するために比較対象を設ける実験のことである。
訓練次第で、頭の中に「構造図」を作れるように
考察のポイントは、簡単なようでやや複雑である。しかし、頭の中で3つの類型パターンを作成し、比較・整理できれば何ということはない。そして、分析図のように基準となるデータと変化を加えた実験群とを丁寧に比較し、推理すればいいのだ。
大切なのは、基準となるものと条件を変化させた実験群を比較し、どこがどう異なるのか、また、その違いが生じたのはなぜかを冷静に推理することである。
私はこの種の図を「構造図」と自ら名づけ、この利用を受験生に勧めているが、最初は分析図のようなものを丁寧にレポート用紙などに描くことをくり返させ、次第に図を描かなくても頭の中に整理して思い描けるようになれば良いと指導している。
もともとできるタイプの人は図2を見て書き込みをしながら分析ができるから、この種の作業は必要ない。だが、普通にはそうはいかないだろう。
何事も慣れが重要で、訓練により慣れてくれば、頭の中にいくつかの箱ができたように整理ができるようになってくる。そろばんの名手は暗算の際も頭の中にそろばんがあるというが、その状況に似ているかもしれない。
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