ジョン・ウー --レッドクリフを作った男の執念【下】 


次回作も「アジア映画」で 理想の映画を追い求める

三国志の映画化をめぐっても、紆余曲折があった。製作費100億円クラスの大作だけに、当然、チャンはハリウッドの主要な映画会社に最初に話を持ち込んだ。だが、まとまらなかった。原因はアメリカ人の三国志への理解不足。「映画会社から『登場人物はこんなにいらない。曹操、劉備、関羽を一人にまとめてほしい』と言われたこともある」と、チャンは明かす。三国志ファンが聞いたら腰を抜かすような話だ。

自分の思いどおりに撮るためにハリウッドの要求をはねつけたウーだったが、結局中国の映画会社や日本のエイベックスなどから出資を得て、「アジア映画」として製作されることになった。ウーにとっては、かえって幸いだったともいえる。

ハリウッドを離れ、中国の地でウーは、一切の妥協なく、理想の映画を作ることができた。作曲を担当した岩代は、「撮影現場の空気を肌で感じてほしい」と、長期にわたってウーと寝食をともにするよう要請された。監督と作曲家との打ち合わせなら、会議室で行うのが通例にもかかわらずだ。岩代はウーにこう言われたのを覚えている。

「撮影現場には中国人も韓国人もモンゴル人もアメリカ人もいる。君という日本人もいる。みんなかつては戦っていた民族同士だ。それが今こうやって志を同じくして、一つの作品を作っている。この光景こそが自分にとっての理想なのだ」

次回作は再びアジア資本による『1949』。49年に上海-台湾航路を行く客船が沈没し900人の乗客が遭難したという実話に基づくストーリーだ。理想の映画を自由に作れるようになったウーの次回作はどこへ向かうのか。ウーは「恋愛ものにしたい」と言うが、49年は中華人民共和国建国の年であり、迫害をおそれ香港に移るきっかけとなった年でもある。早合点は禁物だ。(敬称略)

呉 宇森(John・Woo)
1946年中国・広州生まれ。香港で育つ。監督以外に勢作・出演をすることも。日本のCGアニメ映画『エクスマキナ』などもプロデュース』


(大坂直樹 撮影:吉野純治、梅谷秀司 =週刊東洋経済)
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