ジョン・ウー --レッドクリフを作った男の執念【下】 


 チャンはニューヨーク大学の映画学科で学び、英語は堪能だ。ウーの三国志映画を作るという夢は、米国進出という夢に変わった。ハリウッドなら製作費をふんだんに使って、撮りたい映画を撮れる--。92年に二人はタッグを組んでハリウッドに乗り込む。翌年に初のハリウッド監督作品『ハード・ターゲット』を発表。その後もヒット作を重ね、2000年にはトム・クルーズが主演・製作総指揮を務める『M:I−2』を監督する。『M:I−2』は一連のウー映画にほれ込んだクルーズのたってのご指名。「他人の映画の続編は撮りたくない」と一度は難色を示したウーだったが、「続編ではなく、ジョン・ウー監督のオリジナル作品のつもりです」と、ウーの心をくすぐった。映画の題名が『ミッション・インポッシブル2』ではなく、『M:I−2』なのはこのためだとクルーズは語っている。

『M:I−2』の爆発的ヒットでついに世界のトップ監督の座に上り詰めたウーだが、ハリウッドでの映画製作は、必ずしも満足のいくものではなかった。

「香港では監督に最大の権限が与えられた。だがハリウッドでは映画会社の社長やプロデューサー以外にも多くの人が口を挟むので、ミーティングだけで消耗して、撮影に全力投球できない。しかもストーリーから配役、CG処理に至るまで、綿密な市場リサーチを経て作られるので、出来上がった映画はまるで工業製品のよう。ハリウッドでは監督の個性はあまり表現できないのだ」

ウーの元には『M:I−2』の二番煎じのような、スパイや警察官を主人公にしたアクション映画を撮ってほしいという依頼が続いたが、疲弊しきったウーは、すべて断った。次に選んだ作品は太平洋戦争に従軍したネイティブアメリカン兵とアングロサクソン兵の友情を描いた『ウインドトーカーズ』だった。だが撮影後、他人の編集を経て完成した作品はウーの理想とは懸け離れていた。

「戦争の悲劇を描きたかったが、映画会社の意向で、アメリカ人がヒーローの映画になってしまった。編集では多くの悲劇的な部分を削らざるをえなかった。もしディレクターズカット版を見てもらえる機会があれば、そちらをぜひ見てほしい」

続く『ペイチェック/消された記憶』はヒチコック風のサスペンスを志向しており、アクションに比重を置く予定はなかった。だが、これも主演のベン・アフレックが「ジョン・ウーと組むならメキシカンスタンドオフをやりたい」と言い出す始末。ウーにとってはありがた迷惑な話だが、結局、脚本は変更され、ウーの思いどおりにはいかなかった。

理想とする作品を撮れないジレンマ。「どんな作品をやりたいか」とインタビューで聞かれるたびに「三国志をやりたい」と答えていたジョン・ウーの姿をチャンははっきりと覚えている。そして、04年、機が熟したと判断したチャンは、三国志の映画化にゴーサインを出した。

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