大衆迎合政治が日本を蝕んでいる--『反ポピュリズム論』を書いた渡邉恒雄氏(読売新聞グループ本社会長・主筆)に聞く
「衆愚の政治」と断固戦うという、読売新聞主筆による渾身の政治論とは。
──世の中にポピュリズムが蔓延しているようですが。
『広辞苑』では第六版から、ポピュリズムについて「一般大衆の考え方、感情、要求を代弁しているという政治上の主張、運動。これを具現する人々をポピュリストという」という定義が追加された。しかし、これではポピュリズムではなくて、単なる民主主義の定義みたいだ。なぜ、大衆迎合政治と言わないのか。
最近、朝日新聞が「民主主義を鍛え直そう」と題する社説の中で、脱原発デモという直接民主主義を礼賛している。これこそ「ポピュリズム万歳」と言っているようなものだ。
──1999年にも著書『ポピュリズム批判』を出版しています。
ポピュリズムに興味を持ったのは石橋湛山元首相の影響もある。石橋さんはアンチポピュリストだった。戦前、世論全体が大国主義に向かっているときに、植民地を捨てよ、むしろいらないと主張した。事実、日本は軍事力を使って植民地を得、結果的に敗戦し、戦後は植民地を失って通商国家として復興に成功した。
駆け出し記者の頃、僕は石橋邸の近くに住んでいて、朝、国会まで車に同乗させてもらったこともある。僕は大学時代は共産党員で、その後転向したが、理論的な基礎は石橋さんたちの「小日本主義」だった。当時、まさに石橋さんはポピュリズムの逆に位置していた。その頃は「昭和維新の歌」がはやっていて……。