実家の相続、共有だけは絶対やめなさい! 「兄弟でとりあえず共有」が骨肉の争いを生む

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③ 代償分割

一部の相続人が不動産などをいったん相続し、不公平が出た部分をほかの相続人に現金(代償金)で払う方法。公平感があり後で揉め事が起こりにくいが、代償金を払う相続人は多額の現金を用意しておく必要が生じる。

税理士に一任せず、きょうだい間で情報共有を

たとえば相続する不動産がひとつしかないといった場合、「代償分割」になるかと思います。その場合、相続人は代償金を用意する手立てとして不動産を担保にして金融機関から融資を受けるという手段もありますが、住宅ローンに比べて高い金利でローンを組み、毎月きょうだいに返済していくのは苦痛な面もあるでしょう。

そこでオススメなのは、親の存命中に親を被保険者に自分を契約者および受取人として生命保険に加入しておき、死亡保険金を代償分割金に充てるという方法。親が元気なうちから相続に対して考えておけば、このような安心かつデメリットの少ない手段を選ぶこともできるのです。

代償分割でひとつ注意したいのは、「評価額」をめぐってトラブルになることがあるということ。非常にややこしいのですが、なぜか土地に関しての値段は、国土交通省や国税庁、が決める「公示価格」「路線価」「固定資産税評価額」、都道府県知事が決める「基準地価」、そして流通市場の価格「実勢価格」という5つの評価があるのです。これも事前にどの評価額を使うのか、きょうだい間で決めておいた方がよいポイントです。

また、建物と違って土地だけなら、切り分けてそれぞれが所有権を持つ「分筆」をすることができますが、これも単純に3人なら3等分すればよい、というものではありません。分筆すると、公道に面した使い勝手の良い土地は評価額が高くなり、公道に面していない奥まった不便な土地は評価額が低くなるといった具合に、土地の形状や面している道路によって評価額が異なってくるからです。単純に面積だけではなくその評価額を計算したうえで公平に切り分ける必要があります。

財産分割に関しては、税理士に一任しておけばなんとかなると考えている人も多いかもしれませんが、こういった分筆などには土地家屋調査士等が、また場合によっては財産の評価等を行う不動産鑑定士といった専門家の手も必要になります。調査や登記に多少の費用はかかりますが、後のトラブルを防げると思えば安いものです。こういったことをあらかじめ知っておき、きょうだい間で情報を共有しておくことが大切でしょう。

以上を鑑みて、冒頭のケースでいえば、家を建てたいという長男にその分の土地を分筆して、残りの土地を売った現金を長女と次女で分けることが一番望ましい形かと思います。ですが、感情のこじれなどもあって、なかなかそうするに至っていません。

実に多くの人々の相談を受けてきた私の経験では、事例のように末っ子長男のいるきょうだい構成は揉める傾向があるように感じます。本人よりもその配偶者が口を出したり、きょうだいそれぞれが別々の専門家に相談していることが話し合いを滞らせる要因であることも多いようです。

きょうだい以外の人物には口を挟ませず、全員が共通で相談する専門家を立て、一堂に会して話し合う場を持つこと。これが相続を考えるうえでとても大切だと思います。

(構成:山岸美夕紀)

 

高橋 正典 不動産コンサルタント

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たかはし まさのり

株式会社バイヤーズスタイル代表取締役。宅地建物取引士、ファイナンシャルプランナー、国土交通大臣登録証明事業不動産コンサルティング技能登録者。

1970年東京生まれ。従来の日本の不動産業界の慣習を変え、より顧客に寄り添う「エージェント(代理人)ビジネス」にシフトさせるべく、株式会社バイヤーズスタイルを設立。顧客の物件の資産価値向上のため、業界で初めてすべての取扱い物件に「住宅履歴書」を導入。一般的に売りづらいとされる築年数の古い中古住宅の売買に精通し、顧客から厚い信頼を得ている。

さらに、一つひとつの中古住宅(建物)を正しく評価し、流通させるため「売却の窓口R」を運営し、その加盟店は全国に広がっている。不動産流通の現場を最も知る不動産コンサルタントとして、各種メディア・媒体等においての寄稿やコラム等多数。一方で、一般社団法人相続支援士協会の理事を務めており、相続問題を始めとする家族の諸問題に造詣が深い。自身も30歳で二世帯住宅を建て、その後父親を看取った経験から、後悔のない親とのかかわり方を提唱している。著書に『実家の処分で困らないために今すぐ知っておきたいこと』(かんき出版)などがある。

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