地球上の水は循環し決してなくならない--『水危機 ほんとうの話』を書いた沖 大幹氏(水文学者、東京大学生産技術研究所教授)に聞く
──循環資源の水は、地球規模で見ればなくならない……。
水が危機だから何とかしなければいけない、とよくいわれる。危機だと思わないと大事にしないのか、と言いたくなるが、枯渇するといわれると、そうなのかと思う人がたくさんいるようだ。実際は循環し再生しているだけだ。ただし、水は偏在し変動が激しい。それは自然環境のためというより、社会的な仕組みの問題なのだ。
──水が原因で起こされた戦争は歴史的になかったとも。
名目上、水紛争とされることはあっても、水をめぐっての戦争というものはなかった。水を奪うにしても人道的な側面があるので、戦争を仕掛けたほうに大義がないからだ。
水の分野での投資は、必要な水を供給できるだけでなくて、波及効果が大きい。水がないと、途上国でよく見られるように、その確保に時間を奪われて経済が低水準のままに据え置かれる。逆に水があると余剰労働力が増えてくる。まさに呼び水。それによってそういう地域が発展すると日本にとってもいい。水は大事な経済開発資源で、日本も果敢に取り組むとよい。
──日本の水ビジネスは儲かっていないといわれます。
技術としては漏水率が低い、膜技術が強いなどとたたえられる。だが、たとえば水道事業での成功は、もちろん利益もあるが、顧客に喜んでもらえ、上下水道の運営が長年スムーズに続くのが本来の目的だ。場合によっては漏水率が高くてもトータルで安く施設建設ができればいいのかもしれない。その案件の事情により個別要素技術を売るよりは、事業全体としてのメタ技術を売る、あるいは投資事業だとして考えるという、発想の転換がなければいけない。
「まとめ技術力」が問われているのだ。私の専門は、もともとは土木。たとえばこの町からあの町に大量に人を運ぶ鉄道を建設するにはどうすればいいかという事案があったとき、最短距離の移動には橋がいいのかトンネルがいいのかなどを含め、最小のコストでベネフィットを最大にする方策を考える。そのように目的に沿って要素技術を組み合わせ、実現するのが土木。まさにそれと同じように手掛けることなのだ。