地球上の水は循環し決してなくならない--『水危機 ほんとうの話』を書いた沖 大幹氏(水文学者、東京大学生産技術研究所教授)に聞く

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──水関連での成功例は。

水道は全国おしなべていい例だろう。今24時間、誰も水なしの環境で過ごすことはない。これには世界の人がびっくりする。しかも、その水をそのまま飲めるし、使いたいだけ使える。先進国でも飲み水だけはビン詰めという国がいっぱいある。途上国に行くと、蛇口からいつも水が出るとは限らない。日本はそのシステムをカンボジアに持ち込んで成功している。だが、その後が続かない。要素技術が得意と前面に出すだけでは、もう済まない。

──逆に、日本では外資による水源林買いが話題になっています。

水を海の外に大量に持っていけるわけではないし、地下水をくみすぎたら、規制をかければいい。水源林というと愛国心にぱっと火がつく。水源や源流と聞くと、神聖な意識を持つ。そこが水の面白いところだ。日本は食料や資源を海外に大きく依存している。水は多少持っていかれても循環する。水源林や源流に関しては心を広く持ったほうがいい。

──水質維持は大事ですね。

利根川水系にホルムアルデヒドの前駆物質が流された。あれは規制がかかっていない物質。河川や地下水が汚染される例は少なくない。農業由来の窒素酸化物もあるし、有機溶剤が地下水に入って問題化したりもした。地下水は滞留時間が長いので修復するにも時間がかかる。

──ダム建設については。

ダム建設は洪水対策や発電より水資源のためである場合が多い。毎年渇水で困るわけでもなく、どうしても「保険」の領域になる。10年や20年に一回なら1週間断水してもいいと思うのか、まったくダメと考えるのか、価値観の問題になる。そのために何十億円、何百億円と投資しようとするのを無駄と思うかどうか。これは政治判断なので、科学研究者がどうといえる話ではない。

人口過密な都会に暮らせば、自給自足はできない。水もエネルギーも食料も外に依存する。上流にダムを造った利根川や多摩川によって首都圏の水は支えられている。それに否というなら、そういうタイプの人は都会に住んではダメだ。資源の有限性を超えて、もっと楽しいことがあるなら、ダムを認めないといけない。

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