インドネシア火災が及ぼす世界的被害の規模 なぜ遠く日本でも気にしなければいけないか

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火災の規模は当局が直面する課題の難しさを示している。農家にとっては野焼きをして開墾する方が他の手段よりもずっと安くあがる。さらに、農家にはパーム油や森林農園を運営するための代替案がほとんどないため、乾季になるとさらに多くの土地が焼かれるのだ。

そして毎年、フォールアウト(死の灰)が広がる。今年は約7500万人が煙にさらされ、インドネシアだけでも推定50万人が火災による呼吸器疾患にかかっている。

インドネシアでは5段階の火災防止策が積極的に議論されている。第1に、泥炭地の開発認可を廃止するとともに、火災が発生した場合は土地所有者の特権を返上させるべきだ。第2に、地域社会を通じて森林の新規開拓を一時凍結するべきだ。

第3段階では泥炭地に再度水分を含ませて劣化した森林泥炭を回復。第4段階では森林火災を検知及び管理する早期警告システムを構築する。そして最終段階では民間部門の支援も活用して、インドネシアが地域密着型の森林管理システムを構築する必要がある。

地域間協力にも多大な期待がかかっている。世界のパーム油市場の計85%を占めるインドネシアとマレーシアは、パーム油生産国協議会設立に合意することで、基準を合わせて、環境面で持続可能な生産のやり方を進めていくことになった。

消費者や市場、各種機関も働きかけを

これらのことを進めるには、消費者と市場も、直接ないしは間接的に焼き畑農業を支援する企業に警告しなければならない。好例は2014年のインドネシアのパーム油誓約だ。この誓約では5つの主要製造業者が、森林を伐採せず、人間と地域の権利を尊重して、株主価値を提供するため、もっと持続的な解決策を講じることを約束した。

小規模農家は、わずかばかりの収入を上げるため焼き畑農業以外の選択肢が必要としている。保存や復興を進めて、持続的な生計を立てるために、投資や制度改革を含む総合的な土地管理への取り組みを行わなければならないのは明白だ。

持続的な生産や農産物加工のため、広範な産業基準が必要であるとの共通認識も高まっている。たとえばアジア開発銀行(ADB)など多国が参加する開発機関には、システムや生産能力、市場アクセスが、よりルールを守る形で確実に運営されるよう支援する役目がある。そして国家と地域の規制当局は、改革により土地利用計画を改善して森林保全に意欲的になるよう仕向け、炭素の含有量が少ない土地の利用促進を支援する必要がある。

インドネシアはクリーンで持続可能な開発をすると堅く誓っている。最近では2030年までに自国の努力で29%、国際支援を借りた場合は41%の二酸化炭素を削減する目標を立てている。こうした目標達成には、インドネシアの森林火災撲滅が非常に重要である。地球のために、われわれ全員がバケツをつかまなければならないのだ。

スティーブン・グロフ アジア開発銀行(ADB)副総裁

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スティーブン・グロフ / Stephen Groff

アジア開発銀行(ADB)副総裁。東アジア、東南アジア、太平洋を担当。

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