今年はさらに珍しい国籍が加わった。新入生に北朝鮮の生徒が2人いる。2人とも政府の職員で、教授がわざわざ現地で面接して選んだという力の入れよう。北朝鮮で生まれ育った生徒は、東大でもハーバードでもお目にかかれない。
そんな同級生たちと、近くの屋台街で地元のタイガービールで乾杯し、「北朝鮮ってフェイスブックできるの?」「金正恩(キム・ジョンウン)第1書記のこと尊敬している?」などと、日本で絶対に知り合えない彼らの本音と素顔にじかに接することができる。
ほとんどシンガポールの話題が出ない理由
生徒に加え、教授陣も国際色が豊かだった。1年間で受けた11クラスのうち、教授の出身国はシンガポール、日本、オーストラリア、インド、タイ、スリランカ、中国、オランダ、韓国。教授は専門分野に加え、出身国の状況も詳しい。授業を受けているだけで他国の様子がわかり、視野が広がる。しかも生徒がアジア全域から来ているため、アジア全体の話題を扱う。シンガポールの大学にもかかわらず、授業中の話題はシンガポール以外がほとんどだ。
生活環境もすばらしかった。学校は「シンガポール植物園」という世界遺産のなか。そんな貴重なところに学校があるにも関わらず、通学にわざわざ電車やバスを使わない。学生寮はキャンパスから歩いて10分のところで、地下鉄「植物園」駅の目の前。私の部屋からは道路を挟んで世界遺産の森が見えた。空気の澄んだ緑のなかを、毎朝歩いて通っていた。
学校と寮があるブキティマ地区は、東京でいう青山や六本木のような一等地。いうならば、イチョウ並木で有名な明治神宮外苑に学校があり、東京メトロ銀座線の外苑前の駅前に住んでいるようなイメージだろうか。買い物にも便利で「シンガポールの銀座」と呼ばれるオーチャード通りまでバスで15分。学生寮はほかにもあり、そちらにはスイミングプール、フードコート、24時間営業のスターバックスなどがあった。
世界大学ランキングに関する限り、研究や教授の質の高さなどいろいろな要素で順位は決まる。私は学者や研究者ではないので、学問で東大や京大の方が優れているのか、NUSの方が優れているのかわからない。いくらNUSが「アジア1位」とランキングをもとに主張したところで、何人ものノーベル賞受賞者を輩出している点からいえば、理系を中心とした研究では日本の大学の方がまだまだレベルは高いだろう。