しかし、松下のもともとの発想は、米子の女中さんの話を聞いて、気の毒に、かわいそうに、自分が同じ立場であったらどんなに寂しいだろうと思った、その気持ちであった。たとえ自分が損をしても、人びとが喜び充実して生活ができるよう企業人として貢献したいと考えたのである。公の立場から見れば、アンバランスな状態が続いては、やがて日本全体の成長が止まってしまうと危惧したからでもあった。すなわち、自分のことより他人(ひと)のことを、自社のことより人びとのことを先に考えたことが、逆に成功を呼んだのであった。
自分のことだけを考えていては成功につながらない
そもそも当時は、工場をつくるには立地条件のいいところを選んだほうが経済的であり、過疎地に工場を出せば原価が高くつき損だというのが常識であった。事実、地方へ進出するまえに、松下は「これからは企業の使命として、一時的に多少利益が少なくなっても、あえて過疎に悩む地方に工場をつくって、貢献していくべきだ」という趣旨の論文を発表している。
実際に責任のある仕事に携わってみればわかるが、自分一人が儲けたいという気持ちからは、うまくいくアイディアがそう出てくるものではない。昨今は、自分のことを先に考えたほうが得だという風潮があるが、それは人間というものの妙味を知らない、短絡的で間違った物の見方である。
自分のことより、他人のこと。そのように発想し、行動したほうが、結果的には高い評価と成功を得ることになる。なぜなら、それが人間としての考え方の順番だからである。言いかえれば、自然の理法に従った考え方の順番だから、成功につながるのである。
自分のことより他人のことを先に考えようとする人を、周囲が放っておくはずがない。自然と、望ましい結果に近づくであろうことは、松下の実例をいくつでもあげることができる。
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