この「グラビタス」と「コミュニケーション力」、さらに「外見」が「エグゼクティブ・プレゼンス(企業幹部に求められる資質)」の3要件である―。米国の非営利調査機関Center for Talent Innovationは企業幹部を対象に行った調査の中でこう結論づけた。
このリーダーとしての「コミュニケーション力」とは、わかりやすく力強い言葉、情熱とエネルギー、場の支配力などのことをいう。「外見」とは単なるルックスのことではなく、にじみ出る魅力、オーラといったものだ。豊田社長が「これらすべてを兼ね備えている」などとおもねる気はないが、少なくとも、「時代はリーダーにこうしたものを求めている」ということを本能的に、本人も気づかぬうちに、気づいている――。そんな気がする。
また、水戸黄門が各地を歩いて、悪者を成敗したように(史実は別として)、リーダーたるものは、目先の利益や自分の栄誉のためだけではなく、もっと大きな社会的ミッションを成し遂げるためにあるものだ、というノーブレス・オブリージュ(身分の高い者はそれに応じて果たすべき社会的責任と義務があるという、欧米社会の道徳観)のようなものを、クルマへの愛、従業員に対する思いを臆面なく語る彼の「ロマンティシズム」の中に感じ取ることもある。
共通言語を持つことへのこだわり
冒頭のブログでもわかるように、豊田社長の言葉は実に平易で、その目線は限りなく、社員やユーザーに近い。彼のコミュニケーションのこだわりは「共通言語を持つ」ということだ。
自動車という技術の塊のような商品を作る会社にあって、彼はエンジニアではない。完全な技術屋のマインドと言葉で語れるわけがないと気づいた時に、彼が目指したのが、車のレーサーとしての道を究める事だった。ドライバーの視点は車にとって最も大切なものだ。ゴルフもやめて、休みの日を運転訓練にあてた。過酷な24時間耐久レースにも挑戦した。車の魅力を自ら語る資格を得るためのこだわりでもあったし、何より、「エンジニア」との「共通言語」を持つことができる、という思いもあった。
トップダウンで一方的に言葉を発するのではなく、社員と同じ目線で対話ができる、トップと従業員が「共通言語」で会話をできる、という企業は実はそれほど多くはない。特に大企業になればなるほど両者の言葉の壁は分厚いものだ。
鋼鉄の鎧を着こみ、隙を見せない、感情を表さない、ロボット型の上司やリーダーも多いが、時々は、等身大の素(す)の自分を見せ、共通言語で心を通わすことで、初めて部下の共感を得ることができる。
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