過去には、こんな出来事があった。客にもスタッフにも返事をしないスタッフがいたのだ。誰のほうも向いていない仕事を続けるそのスタッフの姿に、誠実に現場を支えてきた他のメンバーから、「あの人が辞めないなら、自分が辞める」と悲痛な声が上がった。
「コロナ禍の苦しい時期を耐えてきた仲間たちからの訴えでした。誠実に働いている人が辞めていきたくなるような、理不尽な環境だけは許容できなかった」と大塚さんは振り返る。
結果として、周囲への敬意を欠いたそのスタッフは店を去ることになった。
「うちは、立ち上げから“利他的であること”がベースにあるので、それが理解できない人は難しいかもしれませんね」
「たった一杯で幸せになるコーヒー屋」
ここまで「利他」にこだわる理由は、大塚さん自身の原体験にある。
そもそも大塚さんが俳優を辞めてコーヒーの世界に飛び込んだのは、オーディションに落ちたり、良い役が決まった映画の製作が中止になったりと、辛いときにカフェが癒やしの場所だったからだ。
「売れない俳優ではなく、社会にいい影響を与えられる存在になりたい」と、25歳で俳優業を断念。友人が経営するコーヒー豆販売店で4年間働いた後、29歳で独立した。
開業資金を友人・知人からかき集め、見様見真似で事業計画を書き、奇跡的に借りられた店舗を、友人たちと廃材でリフォームして猿田彦珈琲は始まった。
コンセプトは「たった一杯で幸せになるコーヒー屋」。誰かを癒やせる場所を作りたかった。だからこそ、発言が「利己的なこと」に偏るスタッフに対しては、厳しい指導が入る。


















無料会員登録はこちら
ログインはこちら