イノベーションの理由 資源動員の創造的正当化 武石 彰、青島矢一、軽部 大著 ~不確実性に満ちた企てをどう正当化するか
本書は、優れた技術革新に与えられる大河内賞の中から23の事例を選び、「アイデアの創出、要素技術の開発着手から始まって、製品開発を経て、事業化に至る」までの「一連のイノベーション(経済成果をもたらす革新)のプロセス」を分析した力作である。
著者たちによる「アイデア」から「事業」に至る「イノベーション実現の旅」は、「幸運の女神」(協力者、同伴者、支援者)との出会いや、「資源動員」に立ちはだかる「壁」(疑問、批判、抵抗、反対)との遭遇……など波乱に満ちている。
新しい投資を前にして企業は当然、悩む。経営資源に限りがあるからだ。とくに「常識に対する挑戦」への評価はとても難しい。「客観的な(評価)材料」がないからである。それゆえイノベーションの「推進者の固有の理由と組織内外のさまざまな支持者の固有の理由」の出会いが大きな意味を持つ。
たとえば富士写真フイルムのデジタルX線画像診断システムの場合、海外展示会でフィリップスが評価するところから、社内での本格的な「資源動員」が始まっている。あるいはオリンパスの超音波内視鏡は、付き合いのなかった医師による「診断用途の発見」から本格的な「資源動員」に至っている。
それに対して、トップの強い意思(決断)で事業化がすすめられた花王の洗剤(アタック)。最初から社内の合意・支持があった京セラのエコシス・プリンタ。またセイコーエプソンの高精細インクジェットプリンタなど、「壁」のなかった事例もある。