なぜ飼い犬が減り、飼い猫が増えているのか ペット界の新王者「猫」を取り巻く光と影<上>

著者フォロー
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小

ここからは実態把握が困難な、飼い主のいない猫たちの話になる。環境省の統計によると、2013年度の行政による猫の殺処分数は9万9671匹で、うち幼齢個体は60%に当たる5万9712匹。これに対し、犬の殺処分数は2万8570匹だ。

総理府が集計していた時代の1974年度(狂犬病予防法に基づく推計値)は、犬116万匹、猫6万匹だった。愛護意識の高まりから減少傾向を続けてはいるが、2000年度以降は猫の処分数が犬を一貫して上回っている。

この「殺処分」の数には便宜上、交通事故や病気などで死亡した例も含まれる。子猫が多いのは、発育途上で病気やけがに弱いからだ。

たとえば、川崎市動物愛護センターでは、昨年死亡した猫が135匹なのに対し、実際の殺処分は12匹。2012年までは殺処分が圧倒的に多かったが、ボランティアと協力した里親探し強化で逆転した。2011年時点では殺処分308匹、死亡88匹だった。 

かつては動物実験への払い下げもあった

殺処分や虐待などの以外にも、不幸な目に遭ってきた犬や猫も多い。過去には自治体の多くが収容した犬や猫を、大学や企業の研究施設に実験用として払い下げていた。この数は殺処分に含まれていなかった。

NPO法人「動物実験の廃止を求める会(JAVA)」によると、生きた犬猫の払い下げについては、愛護意識の高まりから、東京都を皮切りに廃止の波が大阪府や神奈川県などにも広がり、2006年度には国内で全廃された。

死体についても、現在では奈良県が伝統や文化の保護を名目として、猫の皮を使う三味線の製造業者向けの払い下げ制度を残しているだけだ。同県の担当者によると、ここ数年は払い下げの実例はないという。

だが、行政からの提供が無くなったからといって、繁殖企業から買い付けたり、研究施設内で自家繁殖させた犬猫を実験に使用するケースが途絶えたわけではない。真相は闇の中だ。

和崎聖子JAVA事務局長は「大手化粧品会社が現在、相次いで動物実験の廃止を宣言している。10年ぐらい前では考えられなかった変化だ」と活動の成果を強調する。一方で、「動物実験の全廃にはまだほど遠い。その実現のために、市民や消費者がもっと声をあげていかなくては」と語る。

和崎氏はまた「自治体が殺処分減に固執するあまり、収容した動物を安易に譲渡したり、愛護団体に押し付けてしまう例もあるようだ」と指摘。問題解決の基本は「飼い主が最後まで責任と愛情を持って飼うことであり、行政による徹底的な啓発・指導の必要がある」とも述べている。

飼い主の責任逃れや行政の帳尻合わせによって苦しむのは、声をあげることのできない小さな命なのである。

駅 義則 東洋経済オンライン編集部

著者をフォローすると、最新記事をメールでお知らせします。右上のボタンからフォローください。

えき よしのり / Yoshinori Eki

1965年、山口県生まれ。1988年に時事通信社に入社し、金融や電機・通信などの業界取材を担当した。2006年、米通信社ブルームバーグ・ニュースに移ってIT関連の記者・エディターなどを務めた後、2015年9月に東洋経済オンラインのエディターに。現在の趣味は飼い主のない猫の里親探し

この著者の記事一覧はこちら
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

関連記事
トピックボードAD
ライフの人気記事