夢の「ロボット歯ブラシ」はなぜ10年かかったのか?大学発ベンチャーが直面する「ハードウェア」の成功が簡単でない厳しい現実

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「早稲田大学でロボットを学びました。研究室を見渡すと、ほこりをかぶったロボットがごろごろしているのです。せっかく大学院でロボット開発に取り組んでも、卒業したらその成果は途絶えてしまう。最先端のロボット工学を学んだのに、就職後の仕事は専門と直接は関係がない家電の開発。そんな先輩の姿を見てきました。大学での研究成果を直接社会貢献に生かす方法はないか。その答えが起業だと考えました」

栄田氏が起業を意識したのは大学4年生、アントレプレナーシップ講座に参加したことがきっかけだった。

「それまでは起業という言葉すら知らないほど意識が低かったのですが(笑)。早稲田OBの起業家や投資家の話を聞き、授業後の飲み会に参加したことで考えが変わりました」

こうして、大学院博士課程に合格した18年にGenicsを設立した。

ものづくり大国なのに? 大学発ベンチャー支援の落とし穴

栄田氏に起業を決意させたアントレプレナーシップ講座だが、その源流をたどると経産省が2001年に打ち出した「大学発ベンチャー1000社計画」に行き着く。イノベーションの“タネ”は大学にあるのに、タネだけあって育っていない。栄田氏が喝破したとおり、研究室でほこりをかぶっている状況がある。この問題意識から技術を持つ大学の研究者や院生がベンチャーを設立すれば、イノベーションが活発化するとの狙いだ。

早稲田大学ではアントレプレナーシップセンターを設立。学生への啓蒙のみならず、法人登記可能なオフィス提供や法務支援などを行っている。その後も14年の官民イノベーションプログラムによって、大学独自のベンチャーキャピタル設立が認可されるなど、大学発ベンチャー支援の重要性は高まっている。

経産省の調査によると、大学発ベンチャーの数は20年代に入り一気に増加。今や5000社を突破した。2001年の「大学発ベンチャー1000社計画」の時代から考えると隔世の感がある。政府による支援の焦点もいかに起業してもらうかよりも、大学発ベンチャーをいかに成長させるかに移りつつある。

ただ、業種別で見ると、「IT(ハードウェア)」と「ものづくり」分野の伸びは鈍い。日本は製造業大国、ものづくり大国を自認している。大学にも工学部が多いが、大学発ベンチャーの世界ではその実力を発揮できていない。

早稲田大学アントレプレナーシップセンターの武藤恵美氏は、大学としてのベンチャー支援の難しさを挙げた。学生の親の願いは子どもが一流大学に入って大企業に就職すること。大学の評価も大企業への就職人数が決め手となる。起業は普通の人は選ばない選択肢という社会通念は強い。普通のベンチャーですらリスクなのに、より難易度が高いハードウェアならなおさらだろう。

「誰もが起業する必要はないが、そういう道があることは知られてほしい。特に博士課程まで学んだ院生にとって起業が有力な選択肢だという意識が広がってほしい」と栄田氏。実はロボット歯ブラシの開発に取り組むと同時に、文部科学省認定のアントレプレナーシップ推進大使としても活動し、小学生や中学生に自分の起業体験を伝えている。

「今の子どもは小学生から起業という言葉を知っている。大学4年になって初めて知った自分と比べると、めちゃくちゃ優秀です」と笑いながら、「全員が起業する必要はないが、テクノロジーによる社会貢献を増やすためには、もっと起業への意識が高まる必要がある。自分の体験を伝えていきたい」と語った。

高口 康太 ジャーナリスト

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たかぐち・こうた / Kota Takaguchi

ジャーナリスト、翻訳家。1976年生まれ。千葉大学人文社会科学研究科(博士課程)単位取得退学。中国の政治、社会、文化など幅広い分野で取材を続けている。独自の切り口から中国・新興国を論じるニュースサイト「KINBRICKS NOW」を運営。著書に『なぜ、習近平は激怒したのか――人気漫画家が亡命した理由』(祥伝社)、『中国「コロナ封じ」の虚実』(中公新書ラクレ)。

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