夢の「ロボット歯ブラシ」はなぜ10年かかったのか?大学発ベンチャーが直面する「ハードウェア」の成功が簡単でない厳しい現実

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この素朴な疑問を、開発者である株式会社Genics(ジェニックス)の栄田源(さかえだ・げん)代表取締役に聞いてみた。面白いガジェットの誕生秘話を取材したつもりが、その話は「日本社会はいかにイノベーションを取り戻すのか」という大きなテーマにつながっていた。

10年間に1万個の試作、自分たちの口を血まみれに

ロボット歯ブラシの開発者であるGenics(ジェニックス)の栄田源・代表取締役
ロボット歯ブラシの開発者であるGenics(ジェニックス)の栄田源・代表取締役(写真:筆者撮影)

「ロボット歯ブラシはなぜこれまでなかったのか? 前例がないので研究開発が大変だったためです」と栄田氏。世の中はさまざまなロボットであふれているが、人間の体に作用するものはマッサージ機ぐらいしかないという。人間の体は1人ひとり違う。その多様性に対応し、なおかつ安全性を満たすことは難しいという。

「洗車機の小型版を口の中に突っ込んで歯が磨けるのだったら簡単ですが、ちょっとでも乱暴に扱えば怪我してしまいます。どういう形なら怪我をしないか、最初は手探りでした。前例がないのでひたすら試すしかない。開発初期は自分たちの口を血まみれにしながら実験を繰り返しました」

怪我のリスクだけではない。「データがない」ことも大きな壁だった。

「歯の形は人によって千差万別です。1ミリずれただけで、ロボットはうまく動きません。なのに、歯並びのビッグデータなんてこの世に存在していません。歯列の3Dスキャンが始まったのはごく最近で、入れ歯を作るためのデータ採取は型取りが主流です。デジタル化されたデータは残っていません。しかも、ロボット歯ブラシに必要なデータは歯列だけではなく、口腔すべてのデータが必要です。頬の内側がどんな形をしていて、どうすると傷つくのか、そんなデータは一切なかったのです」(栄田氏)

1人ひとりの体にあわせてオーダーメイドでロボット歯ブラシを作るならばもっと簡単だったが、それでは大量生産できる工業製品にはならない。大多数の人に適合するロボット歯ブラシの形状とはどんなものか、それを探っていった結果、現在では少なくとも7割方の人間に適合する形を見つけ出すことができた。

ロボット歯ブラシの試作の数々
ロボット歯ブラシの試作の数々(筆者撮影)

まとめると一言だが、この試行錯誤には膨大な時間がかかった。18年の企業設立から8年、学生としての研究期間を含めると10年がかかったという。

「試作品の数はざっと1万個、お風呂の浴槽2杯分ぐらいは作った計算です」と、栄田氏は苦笑する。

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