夢の「ロボット歯ブラシ」はなぜ10年かかったのか?大学発ベンチャーが直面する「ハードウェア」の成功が簡単でない厳しい現実

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最後に苦戦したのが「ウイング」だという。歯ブラシ部分には14個ものブラシが所狭しと設置されている。その中で一見すると用途がわからないのが全部に設置された板状の部品。これが「ウイング」だ。

ロボット歯ブラシのウイング
ロボット歯ブラシの位置を調整してくれる「ウイング」。赤い丸の部分が「ウイング」だ(写真:Genics)

試作品完成後、多くの人々に試用してもらったが、一番多いクレームはどうやったら、正しいスタート位置に設置できるか。正しい位置に設置できたら最高の歯磨き体験になるが、慣れるまではその場所をつかむのが難しい。「このままだと売り物にはならない」と厳しい言葉を浴びせられた。

誰でも簡単に正しい位置に設置できるようなガイドが必要だ。その試行錯誤の果てに「ウイング」が生まれた。この部品を歯に軽く押してやると、自然と歯ブラシは正しい位置に収まるようになっている。

「この答えにいきつくまで本当に大変でした。試作品にいろんな部品を切ったり貼ったりしながら、頭で考えるのではなく、手を動かし、自分の口に突っ込みながら模索しました。ウイングはこのトライ&エラーの中で、たまたま見つかったものです。角度が重要なのですが、これも計算で見つけた角度というよりは、試しているうちに最適な角度になったのです。ウイングの開発が24年、これによってg.eNの商品化の道が開けました」(栄田氏)

ハードウェアの開発と成功は難しい

ベンチャー業界には、「Hardware is hard」(ハードウェア開発は難しい)という言葉があるという。ソフトウェア開発ならばプロダクトをリリースした後でも修正が利くが、モノは販売後の手直しが利かない。部品を作るために不可欠な金型の製造にはコストがかかる。量産までこぎつけたらこぎつけたで在庫を抱えることになる。多くの従業員を抱える企業でもハードルが高いのに、ましてや生まれたてほやほやのベンチャー企業が成功するのは難しい。

「起業以来、何度も厳しさに直面しました。累計で約1億5000万円を調達しましたが、ハードウェア・ベンチャーとしては決して多い金額ではありません。創業以来3回ぐらい資金ショート寸前に陥りました。創業者である自分の給料がゼロだったからどうにか乗り切れたようなものです。試作品の製造を外注していたらとても資金が足りないので、3Dプリンターを使い倒して、ほとんど自作しました」(栄田氏)

現行のプロトタイプはそのまま販売しても問題ないほどに、しっかりした外観をしているが、外装から中の部品までほとんどが3Dプリンターで「手作り」したものだという。驚かされたのは歯ブラシ部分だ。バネのような機構で、ブラシを歯に押し付ける強さと、歯ぐきや頬を傷つけない弱さという微妙な塩梅を実現しているが、これも3Dプリンターで作っている。

「お金がなかったので仕方がないです(笑)。3Dプリンターが安く高性能になったこと、早稲田大学に所属していて研究室の設備を使える環境にあったことに助けられました。医療機関や介護施設で使ってもらっている旧モデルがあります。約200台の製造ですが、すべて3Dプリンターで自作しました。3Dプリンターの使いこなしテクニックもどんどん向上してきたので、このノウハウを売れるのではと思うほどです」(栄田氏)

これほどにしんどい思いをしても、起業に取り組んだのには理由があるという。

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