海岸線は語る 松本健一著
東日本の津波被災地を踏査し、自然との共存、復興の形を論じている。江戸時代の干拓や新田作り、明治以降は港湾建設、高度成長期には埋め立てとコンクリの防潮堤により、海岸線は波状的に変貌を遂げる。その歴史と今回の津波被害とを重ね合わせながらの検証、中でも貞山堀のおかげで松並木が残った仙台平野や島嶼(とうしょ)の点在により被害の少なかった松島など、個別の事実が興味深い。福島第一原発では断崖の海岸線に立地しながら高台を硬い岩盤まで大きく削り取ったことが致命的だったという。
沿岸の農漁業については暮らしの視点からとらえ直すことを提言し、復興は地域社会、自然と文化、そして近代社会との共生の中で進められるべきだとする。歴史観による文明論は、世界の海岸線の変容ぶりと社会文化的な意味合いを探った前著『海岸線の歴史』と補完し合う。海岸線をよく知ることで沿岸の安全と暮らしは初めて保証されることを実感させられる。(純)
ミシマ社 1680円
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