FBI秘録 ロナルド・ケスラー著/中村佐千江訳 ~変質で問われてくる逸脱捜査

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FBI秘録 ロナルド・ケスラー著/中村佐千江訳 ~変質で問われてくる逸脱捜査

評者 中岡 望 東洋英和女学院大学教授

 今年の初めに公開された映画『J・エドガー』はFBI(米国連邦捜査局)のJ・エドガー・フーヴァー長官を描いたものである。クリント・イーストウッド監督、レオナルド・ディカプリオ主演で注目された。FBIにはさまざまな神話がある。同長官は現在の組織を作り上げた人物として知られるが、同時に盗聴で得た情報をもとに大統領や有力者を脅迫し、その地位を確固たるものにしたというのも、神話の一つである。しかし、そうした神話が人々の間にFBIに対する恐怖感と好奇心を植え付けてきたことは間違いない。

米国では警察権は各州の市や郡にあり、州境を越えた捜査権限はない。その役割を担ったのがFBIである。しかし、FBIの任務は単なる犯罪捜査から安全保障を担うものへ変わってきている。

たとえばFBI内に設置された「戦術作戦部隊」の使命は「住宅や事務所、大使館などに密かに押し入り、隠しマイクやビデオカメラを設置し、コンピュータに侵入すること」である。本書には、いかにしてFBIのエージェントが盗聴装置を設置するかがリアルに描かれている。たとえば、エージェントは吠える犬が嫌いだとの指摘には笑ってしまう。スパイ物が好きな読者にはたまらないエピソードが満載されている。

ただ、本書はFBIの内幕物としてリアルとはいえ、分析と批判的な視点に欠けている。連続テロ事件以降、米国では市民に対する過剰ともいえるスパイ活動が行われるようになった。ある調査では、FBIは連続テロ事件以降、800件を超す違法行為を行い、テロを口実に米国市民のプライバシーが侵害されてきたという。FBIの視線ではなく、市民の視線から書かれていれば、もっと社会性を帯びた本になったであろう。

Ronald Kessler
オンラインニュースサービスのnewsmax.com首席ワシントン特派員。1943年生まれ。ワシントン・ポストやウォールストリート・ジャーナルの記事で受賞歴17回。著書に『シークレットサービス』『テロリストの監視』『CIA』など。

原書房 2310円 366ページ

  

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